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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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第二話 友達になってください







僕は大学で「経営学部」に入った。これはもちろん、会社を継ぐためだ。


でも、大学では、自分が可能なら科目は好きなものを取れることは分かっていたし、僕はめいっぱい勉強がしたかったので、どこに居てもあまり変わりはないだろうと思っていた。


前期には自然科目から四つ、それから経営関係の科目を四つ、あとは歴史と文学の科目を三つずつ選択した。


それから、文系と思しき科目群の中に「哲学への道」という科目もあったので、それも僕は取ってみた。



僕は、入学式の会場だったシティホールの檀上で、はきはきと自分の夢を語る彼女の、曇りない瞳を思い出していた。





僕の大学生活はそれでかなり忙しいものとなり、家に帰ったら予習と復習、それから「まだ学べるものはないだろうか」と、新しい可能性へとシャープペンシルを走らせた。


母がたまに僕の部屋に入ってくると、「えらいわね、でも無理しないのよ」と気遣ってくれた。


それから、最初の頃こそ首席での合格でなかったことに苛々していた父も、僕が食事も自室に運んでもらって済ませ、必死に勉強に打ち込んでいるのを知ると、「気分転換も大事にしなさい」とまで言うようになった。





あっという間に過ぎた一週間の最後、金曜日の午後の一コマ目が「哲学への道」の時間だった。


僕は学食で食事を済ませてから、広い校舎の廊下をどんどん進んで、奥まった建物へと曲がり、小さな講義室に辿り着いた。講義室というより、「教室」と言えるくらい小さい部屋だ。


こんなところもあったのかと僕は思って、広い学び舎を隅々まで制覇したい気持ちが湧いてくる。


教室の中には、三つか四つのパイプ椅子が据えられた白い長テーブルが、二列に五つずつ並べられ、すでに何人も生徒が席に就いている。僕はちょっと遅れ気味だったようだ。


余っていた一番後ろのテーブルの席に座って、僕は「哲学への道」のテキストとノート、ペンケースを取り出した。


僕が座ってすぐに担当の教授が現れて、中央の黒板の前に立つ。それからバサバサと手に持っていた今日の講義の資料を一番前の生徒に少しずつ渡して、「では始めます」と言い、資料の解説から講義は始まった。




僕は真剣に講義を聴きながらも、目では彼女を探していた。「哲学科に入ったのだから、一年の前期はここに居るはずだ」と思ったからだ。


でも何十人も居る中で、一目しか見ていない人を後ろ姿から探すのは難しい。「やっぱり一番前に座って、何気なく見えるように振り返ればよかったのかな」と思ったけど、もし彼女を見つけた時、その瞬間の自分の顔を見られたらと思うと、とてもそれはできなかった。



その時、一人の生徒が教授の話を遮る。



「お話の途中にすみません。教授、よろしいでしょうか」


一番前にある左側のテーブルに座った女の子で、髪を高い位置でポニーテールにしている、ベージュのブラウスを着た子だった。その女の子が立ち上がる。


「なんでしょう」


女の子は教授に、有名な哲学者についての質問をしていた。




その声は、間違いなく彼女だった。あの鈴の鳴るような綺麗な声が、強い意志を響かせる。僕は胸が沸き立った。




彼女の質問に教授が答え終わると、彼女は「ありがとうございました」と礼儀正しく頭を下げ、また着席する。



居た!見つけた!でもどうしよう!どうすればいいんだ!?



僕は講義を聴き、必要な部分をノートに書きつけながらも、心の中で大きな迷いを抱えていた。彼女を探していたのは確かだけど、見つけたらああしようこうしようなんて、一つも考えていなかったからだ。


一体自分はどうしたいのかさっぱりわからないまま、僕は講義の途中で何度か彼女の後ろ姿を見ていた。


彼女は熱心に教授を見つめたり、ノートにせっせと何か書き取ったりしていた。それを見ていて、僕は満足だった。