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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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あっという間に陽が暮れてしまって、僕たちはもう帰ろうかという話をして、図書館を出る。


学内の奥まった場所にある図書館を離れて、地下鉄の駅が近い方の学校の門を目指した。

僕たちは灯りが消えて生徒も居ない講義室の間をすり抜け、学食の脇を通って、人通りの少ない廊下に差し掛かる。その時、美鈴さんが立ち止まった。

「どうしました?」

僕がそう聞くと、美鈴さんは頬を染めてちょっとうつむいた。


少し暗い廊下に立った美鈴さんの輪郭はぼやけていたけど、伏せられたまつ毛の影は濃く、ワンピースの淡くくすんだ緑色は暗い中で濃くなり、その分、彼女の白い肌を強調する。そんな彼女の頬は、灯りの乏しい中でも分かるほど、赤い。


僕の胸は、それで何かを期待して高鳴る。



「…次のデートの約束、しませんか?」



そう言ってすぐにまた彼女はうつむき、恥ずかしさをごまかすように鞄の内ポケットからスマートフォンを取り出した。

「…は、はい!えっと…」

僕は「デート」と聞いて耳まで熱くなるのを感じ、どうしようどうしようと途方に暮れながらも、自分も慌ててスマートフォンを鞄から取り出す。


僕たちは向い合せに廊下で立ちっぱなしになって、彼女は僕に話を切り出して欲しそうだったし、僕はどう言えばいいのかわからなかった。


「えっと…どこがいいですか?」

僕はやっとのことでそう言いながら、遊園地、映画館、レストラン、カフェ、公園、美術館、博物館…と、よく聞く「デートにうってつけらしい場所」を思い浮かべながらも、どれが彼女に喜んでもらえる場所かわからなかった。

彼女はちょっとの間黙っていたけど、そのうちに彼女の表情はだんだんと悲しげになっていった。僕はそれを見て、自分の言葉のせいではと、少し動揺する。

「私…デートってどこに行くのかよくわからなくて…家でずっと勉強ばかりしていたものですから…馨さんは、どこに行きたいですか…?」


美鈴さんがそう言って僕に向けた目は申し訳なさそうだったけど、僕はすぐに彼女を安心させてあげられると思って、勇気がついた。だって、それは僕も同じだ。


「…僕も、デートってよくわかりません。美鈴さんと同じ毎日でしたから。友だちと遊んだりもしないで、勉強勉強の毎日でした。心配することはありませんよ。一緒に探していきましょう」

僕がそう言うと、彼女は明るい両目の光を取り戻してくれた。

「じゃあ、その…お食事のあとに、大きな図書館に行ってみるというのはどうでしょう?」

「いいですね。いつにしますか?」



僕たちは、その週末の土曜日に、図書館に行く約束をした。食事はどうしようかという話になったけど、僕はあえて、「それはその日の美鈴さんにお任せします」と言って、僕たちは地下鉄の駅で上りと下りに別れた。