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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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僕は、園山さんに対して、今までどういう気持ちを持っていたかを、余さず話した。


入学式の生徒代表の挨拶に立った園山さんを見て忘れられなくなったこと、そのまま彼女を追いかける大学生活を送っていたこと、自分の決めた道をまっとうしようとして努力を続ける彼女を心から尊敬していること、彼女と初めて言葉を交わした時にはまだ自分の気持ちに気づいていなかったこと、それから、二人で初めて街に出かけた時、彼女が可愛らしく見えて、初めて気づいたことを。

そのあとで、「嘘を吐いて避けていて、ごめんなさい。どうしても、貴女に会うこともつらくなって…」と謝った。すると、園山さんも自分の気持ちを話してくれた。



「私は…上田さんがとても真面目で、真剣に私に向き合ってくれているのを知っていたから、ずっと好きでした。一緒に出かけた時、実はちょっとデートのつもりでいたんです。そんなふうに考えるなんて悪いとは思っていたから、こっそり思い出としてしまっておくつもりで。上田さんが私から離れていってしまった時も、あの日のことを思い出して、「可愛らしい」なんて言われたんだから、もうそれで充分かなって思って、諦めようとしてました。でも…あの食堂であったことで、上田さんがすぐに見つけて私を精一杯守ってくれたから…すごく感謝しましたけど、その分、「友だちだからかな」って思って…少しだけ悩んだりしました…」

園山さんはそこで悲しそうな顔をしてうつむき、言葉を切った。僕は、今こそこれを言わなければと思って、膝の上で両手を強く握った。

「ごめんなさい…実は、あのことがあったあと、園山さんがそんな人じゃないとはわかっていても、僕、「下心があったから助けたんじゃないか」って貴女に思われるかもしれないと思って…怖かったんです…」

すると、園山さんは急いで首を振る。

「そんな!そんなわけないです!上田さんがそんな人じゃないのは、私、知ってます!だって…私、そういう誠実なところも、好きですから…」

園山さんは、自分の言ったことにまた恥ずかしそうに下を向いたけど、その目は僕を見つめてさらにこう言った。

「初めて喋った時、プライドより、誠実さを大切にする人なんだなって…わかったんです」

そう言った彼女は、誰も知らない僕の秘密をわかっていたかのように、満足そうな顔で僕を見つめて、もう一度「だから、好きなんです」、と言ってくれた。


それからも僕たちは、図書館での勉強会の間にお互いが感じていたことを話したりしていたが、僕が最後に、「お付き合いしていただけますか?」と言うと、彼女はじれったそうな顔で、「はい、もちろん。よろしくお願いします」と返してくれた。





帰り道はお互いに言葉少なになり、僕たちは地下鉄の駅までの人通りの少ない道を、のろのろと歩いた。今までは園山さんに僕がついていく形だったけど、今度は肩を並べて、時たまにお互いを見つめ合った。

「あの…駅に着く前にお願いがあるんですけど…」

彼女がそう言って立ち止まったので、僕も彼女の隣で「なんでしょう」と返す。


「手、つなぎませんか…?」


えっ…!


僕はその時、急に手のひらが汗ばんで、ただでさえ速い鼓動が早鐘を打ち始めた。でも、僕だって同じ気持ちだ。


「園山さんが…よければ…」


そう言って園山さんに右手を差し出すと、彼女はすぐにはその手を取らずに、人差し指を僕の前に立てた。僕は、なんだろうと思ってちょっと身構える。


「それから、「美鈴」って呼んでください」


彼女はちょっと不満そうに唇を尖らせ、耳まで真っ赤にして僕を見上げる。


まるで嵐のように襲い来る幸せに、僕は死んでしまいそうなほど嬉しかった。


「み、美鈴…さん……」


僕のあんまりにも情けない声は、か細く震えて、頬が焼けそうに熱い。


彼女はまだ少しだけ納得していないようだったけど、「うーん…まあ、よしとしましょう」と言った。


「じゃあ行きましょう。馨さん」


彼女は僕の右手を取って、駅までを嬉しそうに歩き始める。彼女の左手は小さくて柔らかく、吸いつくように潤っていて、温かい。僕は自分でも追いつけないほど舞い上がってしまい、足元がおぼつかなかった。



「じゃあ、また明日。学校で」

「はい。じゃあ…」

僕が地下鉄の列車を降りて彼女が車内に残る時、彼女はドアにある窓に張りついて、僕に手を振った。





こうして僕たちは、これから来る夏を前にして、桃色の風が二人だけを包み込む季節を迎えたのだった。