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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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家に帰ってから僕は、その日だけ勉強をしなかった。勉強どころか、何も手につかなかったのだ。

頭の中には、園山さんのことしかない。今は3+3の計算だってうんざりだ。


鞄を机の横に放ったままで、僕はベッドに身を投げ出していた。夕食を勧めに母が部屋を覗きに来たけど、「今日は食欲がなくて」と、言い訳をした。



僕は今日、彼女と二人きりで街に出かけて楽しかったはずなのに。

いつも彼女と一緒に図書館で過ごしていて幸せだったはずなのに。

今の僕は、重苦しい気分をなんとかため息にして吐き出し、それはもう部屋中を満たしてしまった。



僕は気持ちが苦しかった。園山さんを恋する人にして、「見ているだけでは満足できないもの」としてしまったことで。

憧れて尊敬できるだけで良かった。僕はそう思っていたから、自分の気持ちにこんなにも長い間気づかなかったんだろう。

もしこのことを僕が園山さんに言ったとしたら、どうなるかな。

…そんなことをしたら、いくら優しい園山さんだって、僕に幻滅するだろう。

だってこれを伝えるということは、今まであった心地よい距離感を否定して、敬意だけを持つ健全な関係を、不純な動機で否定するということになるんだもの。


僕がこれを口にした時、園山さんが今まで僕に向けてくれていた微笑みが、内心の軽蔑を隠した無色に変わるんじゃないか。そうして優しい園山さんは、心の内で思っていることを僕には告げずに、黙って僕の元を立ち去るんじゃないか。僕には、そんな不安な想像しかできなかった。


友達だから、そばにいることを許されていたのに。




僕はとても寂しい気持ちで、服も着替えずに眠った。