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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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馨の結婚(第一部)(1~18)

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そうしてさらに四駅ほど電車に乗って着いたのは、都心にある、とても大きな本屋だった。

「本屋ですか?」

「あ、はい、本屋です…実は、ここの本屋さんに、教授の本の取り寄せをお願いしたので…」

「教授って、入学式の挨拶で言っていた、皆川教授の、ですか?」

「はい…教授本人のお手元にも、もうないようだったので…」

園山さんは恥ずかしそうに俯く。

「個人的な用事ですし、遊ぶ場所でもないので、前もって伝えておくのが、気まずくて…」

そう言ってしょんぼりと項垂れて肩を落とし、両手の指を組み合わせたり離したりする園山さんの肩を、僕は思わず叩いた。

「大丈夫ですって。僕も本は大好きですから」






それから、取り寄せた書籍をカウンターで彼女が受け取り、二人で店内を見て回った。

もちろん勉強の本も見たけど、僕達二人は最後はずっと、児童向けの絵本のコーナーにいた。


「わあ~、これ懐かしい!よく読んでもらったなあ~」

そう言って嬉しそうに可愛らしい小熊が描かれた絵本を見つめてから、彼女は僕を振り向く。

「僕もそれはよく読んでもらいましたよ。あと、こっちのも」

そう言って僕は三人の怪しそうな男が描かれた表紙を指差す。すると、彼女は一層目を輝かせた。

「いい話でしたよね!その本!想像とは全然違いましたし!」

「そうそう。実はこの三人、良い人だったんですよね」

僕達はその後、互いの読んだことのない絵本を紹介し合ったりして、本屋を出た。



「今日はもう帰りますか?」

本屋の前で出口の脇に逸れて、僕達はそこで立ったままのろのろと足踏みしていた。

「そうですね。もう夜ですし…」

彼女が言ったことに僕は当然の返事をしたけど、そこで、「まだ帰りたくないな」と思い、ふと、悲しいような、切ないような自分の気持ちを見つけた。



もっと彼女と一緒にいたいな。本当はずっと。



そう思った時僕は、大学の学食で彼女に初めて微笑みかけてもらった時の衝撃を思い出した。


嬉しかった。とても。


あの時は、急なことに驚いただけだと思っていたのに。



僕は、してはいけないことをしようとしている気分で、自分の気持ちを確かめるために、おそるおそる彼女を振り返った。


背の低い彼女は僕の視線に気付いて顔を上げて僕を見る。綺麗に編み込んだ、花冠のような髪の毛と、今、僕を見ているだけの両目の輝き。


それがこんなに美しく見えるんだ。こんなの、もう、恋以外の何物でもないじゃないか。



慌てて彼女から目を逸らして、熱くなる頬を隠し、僕は帰ろうかどうしようか考えている振りをした。

そして、心臓と手の震え、喉の強張りが収まってきてから、「じゃあ、駅まで一緒に行って、別れましょうか。僕、ここから二駅なんですよ」と、何気なく彼女に笑ってみせた。