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 塔の内部は吹き抜けになっており、無数の石碑(モノリス)が等間隔で並んでいた。そして、幅の広い螺旋(らせん)階段が塔の内周を回るように取り付けられており、そこにも石碑が並んでいた。
 石碑が並んでいるその様子は、寺井の記憶にある一つの場所と合致(がっち)する。しかし、寺井はそれを否定したく、石碑をよく見る。
 その石碑の一つ一つには名前のようなアルファベットの羅列(られつ)が並び、所々に花が置かれていた。その花は枯れて色褪(あ)せている。
 寺井はそれで諦めたように確信した。
 ――ここは、墓地だ。
 今更ながらに恐ろしい所に迷い込んでしまったのだという思いが寺井の中に湧き上がっていく。しかし、今更墓場くらいでびびってどうする、と自分を叱咤(しった)した。
 そんなことを考えていたとき、ふとした違和感が目に映る。
 寺井には魔界の言葉は読めないが、ローマ数字は共通しているらしく、そこの部分は読むことが出来た。ただ、その部分がおかしい。若い方の数字は生年で後に来るのは没年なのは恐らく共通だ。
 目に入った二つの石碑を見る。若い数字は皆ばらばらだ。当たり前と言えば当たり前のことだ。だが、没年の部分に同じことが書かれている。
『 1975,Qui 5 』
「なんだこれ……」
 寺井は得体の知れないものが背筋を這(は)い上がってくるような恐怖を感じ、思わず辺りの石碑を見渡す。
「イチ、キュウ、ナナ、ゴ。……キュー、ユー、アイ。――ゴ」
 思わず全力で叫びそうになるほどの恐怖が寺井の全身を強ばらせる。
 寺井は走る。走りながら、出鱈目に石碑を覗き込む。没年月日が違うものを探した。寺井はそうしなければいけないという強迫観念に突き動かされていた。
 しかし、没年月日が違うものは無かった。
 ここで、何かが、あったのだ。それも並みのことではない。これだけの数の人が一斉(いっせい)に死んでしまうような。その結論にたどり着き、寺井は思わずへたり込んだ。
「ここ以外なら自由に行き来して良いと行ったのですが、ここに来てしまいましたか」
 そんな声が聞こえて、寺井は顔を上げた。
 そこにはロザリオがいた。彼女は、ほんの少し咎(とが)めるような眼差しで寺井を見ていた。
「――ここで、何があったんですか?」
 ロザリオはそれを聞いて、意外そうな顔をした。
「別に何もありませんよ」
「全員、死んだ日が同じでした。こんなにたくさんの人が死ぬなんてことは……」
ロザリオは観念したように首を振る。
「気付いてしまったんですね」
 ロザリオは逡巡するように視線を泳がせ、そして、寺井に言った。
「今ならまだ、ここで起きた出来事を知らずに、いることもできるでしょう。
 ここで起きた出来事を知らないまま帰れば、ここでの記憶は泡沫(うたかた)の夢の如く現実味を失い、すぐに忘れることになります。
 ですが、ここで起きた出来事を知ってしまったら、この世界で過ごした時間は、恐らく普通の記憶となってしまうでしょう。それだけ衝撃的な出来事なのですよ?」
「それは――」
 悪いことなのかと、寺井は問おうとした。だが、普段は優しい印象の光を湛(たた)えているロザリオの目がすっと細められたのを見て、寺井は言葉を止める。
「人に支えきれる事柄には限度というものがあるのですよ。それは、魔族でも同じで、きっと森羅万象(しんらばんしょう)の全てにおいて同じでしょう」
 ロザリオは聞いた。
「寺井様には過去を知るだけの覚悟があるのですか?」
 寺井はその、契約じみた言葉に、こくりと頷く。
 ロザリオは感謝と憐れみの中間のような笑みを浮かべ、
「それでは少し、昔話でもしましょうか」
 と言った。








九、人間の侵攻

 ロザリオと寺井は、墓石が左右に並ぶ道を歩いていた。しばらく進むと、塔の内部に螺旋状に作られた回廊にさしかかる。ロザリオは、何も言わず、そこを登っていった。寺井も後に続く。
 螺旋状の長いスロープを登りながら、ロザリオは口を開いた。
「そもそも、不思議だとは思いませんでしたか?」
 徐々に窓からは光が消え、塔の中はどんどん暗くなっていく。既に、ロザリオが手に持つカンテラが無ければ、辺りの様子などほとんど分からなかっただろう。
「昨日、私は寺井様に治癒魔術を施しました。その治癒魔術があるにもかかわらず、お姉様はどうしてあのような姿なのか、疑問には思いませんでしたか?」
 言われて見ればそうだ。寺井はそのことに気が付かなかったという自分に驚いた。
「ええと、魔族には効果が無い……とかですかね?」
 とりあえず思いついたことを言ってみたが、ロザリオは首を振った。
「いえ、確かに昨日寺井様に施した治癒魔術で魔族を治療することは出来ませんが、対魔族の治癒術はあるのです。もっとも、対魔族の治療術は、もともとほとんどの魔族が完璧な治癒能力を持っていたこともあって、使い手は少ないんですがね」
「じゃあ、ロザリオさんやエヴァンスさんたちサキュバスは完璧な治癒能力を持った魔族ではないってことなんですね」
 しかし、寺井の予想に反して、ロザリオは首を横に振る。
「いえ、吸血鬼(ヴァンパイア)とサキュバスはずば抜けてその能力は高いのです。お姉様がそれでもなおあの姿になったのには理由があるのです」
 ロザリオがそう言っているうちに螺旋階段が終わり、塔の最上部に到達した。
 そこには一つの大きな石碑があった。その石碑の後ろには、七色の輝きと、それに跪く、黒翼を持った女性のステンドグラスがあった。
 それは、寺井が昨日見たラピス家の記録の本に出てきたものと同じ光景だ。
「この石碑はお姉様の、手足の墓なのです」
 ロザリオはそう言って、昔、ここで起こったことを話し始めた。

 *

 ――バガン! バガン!
 それがなんの音なのか、サキュバス達には分からなかった。
 もともと、魔界は人間界にさほど興味がない。当時、大部分のサキュバス達にとって人間はただの餌――といっても命まで取ることは稀(まれ)だが――という認識だった。
 それ故に、人間がどんな技術を持っているのかを詳しく知る者はほとんどおらず、一部の好事家(こうずか)だけが知っているだけだった。
 そうして、不用意に近付いたサキュバスは、男が放つショットガンによって絶命した。
 もちろん、銃というもの自体はサキュバス達も知っている。しかし、彼女達の知る銃というものは、せいぜい火槍、よくてマスケットか火縄銃であり、ショットガンのように弾丸が拡散するものが存在するなんていうことは知らなかった。
「妙に、騒がしい」
 エヴァンスは愛用のエストックを引き抜いて眺めた。恐らくはまた手合いの者が押し入ってきたのだろうと、そんな風に軽く考えていた。
 サキュバスの風習で、貴族はいつ何時(なんどき)下克上をされても良いということになっている。実際の家や血にこだわらないサキュバス族の世界は恐ろしいまでに実力主義なのだ。そのため、力を付けた若人(わこうど)が時折(ときおり)道場破りのように貴族の館に挑戦してくることがある。
作品名:著作権フリー小説アレンジ 作家名:西中