小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

著作権フリー小説アレンジ

INDEX|35ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

 寺井はそれを分かっていながら、本能で、あるいは意地で、剣を振る。
 しかし、またしても赤の剣は垂直に落ちたかと思うと、左足を切りつけた。
 脛の辺りを斬られながらも、寺井は後退し、そして確信する。
 すなわち、『彼女は剣を打ち合わせるのを極端に嫌っている』。
 その思考を途切れさせようと、左手にある黒の剣が寺井を追い縋るように煌めく。剣で守ろうとすると、またしても軌道がかくんと折れ、右腿を斬られる。足が痺れるような痛みに冷や汗が出るが、身体に鞭を打って後退する。
 それで寺井は理解する。
 剣同士を打ち合わせる甲高い音を出すことは、すなわち、エヴァンス達を呼ぶことになる。相手はそれを知っていて、それを嫌がっているのだ。
 剣が極端に脆く、打ち合わせる強度が実はないという可能性も無くは無いものの、斬られた感触からそれはないだろうと寺井は推測した。
 それならば、やはり彼女は『偶然』此処に現れている訳ではなく、自分を狙ってきたと言うことなのか? 寺井は考えながら、意識を相手の動きに集中させる。
 相手を斬る必要は無い。ただ、一度だけ相手の剣を弾けばいいのだ。
 寺井は右肩をほぐすように動かす。






 フランは困惑していた。
 何故、石の売女エヴァンスが彼のような男性を連れているのか。その理解に苦しむ。
 精を回復するためのリソースとするならば、発育が良く、体力がある十四から十八くらいの若い雄の人間をこちらの世界に連れてくるのが最も良い。欲を言えば童貞や、それまで精通経験のない雄ならなお良い。もっともそれほどの逸材はなかなかいないのである程度の妥協や、『育成』をするのが一般的だ。
 彼はその基準からみれば少々貧弱そうに見えたし、『妥協』するにしてももう少し居なかっただろうかと首を捻らざるを得ない。
 普段吸う分には問題無いが、共に旅をする者として選ばれた人間にしてはやや不適当。フランはそう感じた。
 やはりリソースとしてではなく、戦闘要員なのか。
 フランは彼が魔術師かなにかかと思い、声帯への攻撃を試みる。魔術師ならば何らかのアクションをするだろう。しかし、これもあっさり通る。
 剣を抜いてなかなか堂に入った構えをしたので、フランは剣士だったのかと思い直す。しかし腕試しをするも、全くもって話にならない。
 彼はあまりにも弱すぎた。
 どうして彼はここにいるのか。それがまるで分からない。
「弱いですね。ご主人様。ご主人様のような弱い弱い人間が、何故こんな所に居るんです?」
 フランはそう聞いていた。

 *

 弱いと言われて、寺井は頷くしかなかった。

結局のところ、自分は弱い。寺井はそんな当たり前の事に今更ながらに気付く。
 強い獣の群れの中に居たというだけで、自分はこれっぽっちも強くないのだ。


そんな自分が許せない。
 強く。
 なりたい。
 その意識が不意に白熱する。
 例えここで殺されても、

寺井はゆっくりと剣を握りなおすと、思い切り薙いだ。
 だが、勢いのない一撃を、フランは軽く身を仰け反らせただけで回避する。
「往生際が悪いですよご主人様」
 フランはそう言って、黒の剣を振るう。寝ている寺井の肩口から腰に抜ける一撃。マーブルがそれを迎撃する。フランは剣の軌道を変える。右太腿を狙う。だが、寺井のマーブルもそれに合わせるように動き、太腿の前にを守るように下ろされた。予想外の動きにフランは思わず攻撃を中断して距離を取る。
「負け、たく、ない」
 掠れた声と共に、寺井が起き上がる。
 満身創痍。
 しかして、その立ち姿には全くと言って良いほど隙が存在せず、魔術でも使っているかのような恐ろしいプレッシャーを放っていた。

 苛烈な踏み込みとともに、寺井の突きが繰り出された。
 フランは淫魔という名の獣としての第六感によってかろうじて身を捻ってその一撃を躱す。
 ――見えなかった。
 フランはその事実を冷静に受け止める。人間に可能な突きの速度の限界を遥かに超えていた。
 いったい彼に何が起きたのか。
 弱いと言われて怒ったからと言ってこれほどまで戦闘能力が跳ね上がることなどあり得ない。
 フランは追撃を警戒して滑るように後退する。
 そして、彼の手にした剣の、その異様さに気付く。
「なんですか……それ……」
 マーブルはその刀身がまるで紫水晶を思わせる色に変わっており、薄く輝いている。そこまではいい。魔力が付与された剣には自おのずから発光するものも珍しくはない。問題はそこではない。
 その剣の柄を握る彼の手に重ねるように、もう一つの手が添えられていた。
 その手はまるで幽霊ゴーストのように半透明だが、それに比べれば幾分も生気がある。そして、その手は肘の辺りでリボンが解けるように空気と混じり合って消えていた。
 フランは絶句する。これまでに、そんなものは見たことがない。
 驚愕に動きを止めるフランを寺井は睨み付け、剣を構え直す。
「――負けてなんて、やらない」
 そんな言葉が、寺井の喉を通り抜けた


------------------------- 第16部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
暖かい手だった。

【本文】

 剣の柄を握る手に重ねられ掌の温もりは、陽だまりに翳した様な暖かさで、それで居ながら力強い。
 寺井は不思議と、その奇異な『手』に恐怖も嫌悪感も抱かなかった。
『手』には指の根本に、幾つものマメがあるらしく、寺井は手の甲にその硬さを感じる。

「ご主人様は、一体何者なんですか……?」
 メイドの狼狽の声が届く。
 寺井は黙したまま、じりとやすりで削るように間合いを縮めていく。
 メイドはそれに気付くと、狼狽の色を消し、ぐっと顎を引くと戦闘のために心を作り替えていく。
 今度は寺井から攻撃する。
 ヒトの形をしたものを相手に、剣を振るうという事に抵抗がないわけではない。
 しかし、やらなければやられる極限と、命のやり取りの中で、そんなことに拘泥していられるほど人間が出来ているわけでもない。寺井はそう割り切る。
 殴られれば苛立ち、殴り返したくなる。
 その獣の闘争心はきっと生命の根源的な感覚だった。
 だから、自らを縛る道徳観を置き去りに、寺井は突きを放つ。
 重ねられた『手』が強烈にその突きをアシストする。まるで剣そのものが意志を持って動き、身体が強引に牽引される様な感覚と共に突きが飛ぶ。
 フランはじゃりと足を軽く開き、身体を捻るように半身を開きながらしゃがみ、その一撃を躱す。捻った身体を戻すように、突きの下をかいくぐるように赤い剣が振られる。
 しかし、寺井の攻撃はそこで終わっては居なかった。刃がくるりと回転すると、フランの首筋を正確に狙った斬撃に変化する。突きの速度がそのまま転嫁した一撃にフランはとっさに攻撃を中断し、身体を反らしながら回避に転じる。
 ざりざりざりっ!
 靴裏と地面が擦れる音が響く。
 フランは腰を落とし、左右の剣を牽制するように広げ、回転しながら距離を取る。それと同時にぱたたたっと、飛び散った血が周囲の木の葉にかかる軽快な音がする。
作品名:著作権フリー小説アレンジ 作家名:西中