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「なんで! なんで貫かれた!」
 エヴァンスは痛みを堪えるように、左肩を押さえ、それでも立ち上がる。そうだ、確かに先ほどの攻撃で傷ついてはいたが、後数発は耐えられるという計算のはずだった。その間に肘打ちでダメージを受けた身体の修復をし、再度挑むことが出来るはずだった。
 男はその様子を見てへらへらと笑う。
「ショットガンってのはな、二種類の弾丸が放てるんだぜぇ」
 ショットガンは彼が言うように、大きく二種類の弾丸を撃つことが出来る。一つは、先程まで彼が使っていた散弾だ。散弾は、カメラのフィルムケースを縮小したような円筒系の弾薬の中に、ペレットという小さくて柔らかい金属の球が無数に入っているもので、引き金を引くとそのケースから一斉にその金属球が飛び散るように飛び出し、前方円錐型の範囲に面の銃撃をする。
 そしてもう一つが、スラグ弾と呼ばれるものだ。本来ショットガンはその名の通り、先述の散弾を撃つためのものだ。散弾はその構造上普通の重で使われる弾丸よりも大きく、それを打ち出すための散弾銃もまた銃口が大きく作られている。簡単に言えば、それを利用して本来ペレットが入るべき部分を丸々金属にしてしまったものがスラグ弾だ。一般に銃の弾丸というのは大きければ大きいほど、当たったときの破壊力は大きくなる。遠距離の目標へのダメージは普通の突撃銃に分があるが、近距離での破壊力は折り紙付きだ。
 本来は熊などの大型獣を斃(たお)すのに使うもので、その用途だけでも威力の高さが伺える。
 男は更に一発撃った。恐ろしく大口径の弾丸はエヴァンスの右足の膝に命中し、間接を逆向きにした。エヴァンスは悲鳴と共に倒れ、倒れた衝撃で右足はほとんど皮だけで繋がっている状態になった。
「もう一つ言っておくとなァ! この銃の弾丸は『魔術無効化(アンチマギア)』と『再生禁止(アンチサナーレ)』の魔術を付与(エンチャント)してあるのさ。全身が魔術みたいなベトコン女には効果絶大だろ?」
 そう言って、更に弾丸を撃ち込む。しかし、エヴァンスの闘志はまだ萎えていなかった。打ち込まれた弾丸の軌道上にエストックの剣尖(けんせん)を差し出し、その弾丸の軌道を弾いてほんの僅かに逸らす。弾丸は床にめり込み、石の破片を散らした。
「舐めるなよ人間。まだちょうど良いハンデができたくらいだ」
 そうは言ったものの、ほとんどはったりだと言うことは彼女自身が一番よく分かっていた。肩が貫かれただけなら、足が折れただけなら、エヴァンスが負ける可能性などほんの僅かも無かっただろう。
 痛み。
 その未知の感覚は、エヴァンスの身体から自由を奪い、勝負の行方を推し量ることが出来ないものにしていた。
 エヴァンスは左足で立ち上がる。右足は膝から下の自由がきかない。ほんの僅かな振動で、背筋から脳に向かって恐ろしく獰猛な色をした電撃が流れ、その感覚にエヴァンスは吐きそうになる。
「ほう」
 男は怒りを内包した笑みを浮かべると、ショットガンを撃つ。エヴァンスはそれを剣尖で弾く。そこから流れる動作で突きを放つためレイピアを引き戻す。ロザリオはその直後に左肩に再び強烈な痛みを感じる。その普段感じることのない、「痛み」という慣れない感覚に思わず立ち止まってしまった。
 エヴァンスの左肩、先ほど弾丸に抉られた場所には、新しくナイフが突き立っていた。
 男が銃を撃ったのは囮(おとり)。それとほぼ同時に、手首だけの僅かな動作で素早くナイフを投げ付けていた。それがあまりに自然な動作だったため、エヴァンスは反応が出来なかったのだ。
 男は一瞬の隙を突いてエヴァンスの懐に潜り込むと、その勢いのままナイフを狙ってタックルを仕掛けた。
「――――――っ!!」
 痛みが喉に詰まり、エヴァンスは声が出せない。思わずエストックを取り落とした。その一撃で左肩から下の感覚が消えていた。
「ちなみにそのナイフにも同じ魔術が付与されています。……さてここで問題です! このナイフでお前のようなベトコン女の腕を切り落としたらどうなるでしょう?」
 男は嬉しそうにそう言うと、どこからか取り出したもう一本のナイフを手の中でくるくると回す。
 エヴァンスは自分の脳裏に過ぎったその想像に恐怖した。
「や、やめ――」
 魔族同士の戦いでは有り得ない、その恐ろしい仕打ち。
「正解はァ! もう二度とぉ! 生えてこねぇんだよ!」
 ドスッという音と共に、エヴァンスの左肩にさらなる激痛が走り、ゴキリと関節が外される耳に嫌な音が響く。
「やめろおおおおお!」
 エヴァンスは抵抗し、右手で男を殴る。しかし、それに力は籠もらず、ほとんど子供の攻撃のようだった。更に羽根をばたつかせ抵抗する。
「邪魔なんだよォ!」
 男は素早く翼に向かってナイフを振るう。サキュバスの翼には骨格がないので、驚くほど簡単にナイフが通り、一対の翼が落ちる。翼は身体から離れると同時にぼろぼろと砂山のように崩れた。背中の肩胛骨の下にまるでぽっかりと穴が開き、そこから虚無が流れ込んでくるような恐ろしい苦痛がエヴァンスに襲いかかる。
 エヴァンスは更に右手で殴ろうとしたが、素早く男に捕まれた。
「おとなしくしろって言ってんだろうが!」
 そして、ナイフを振るい、手首を貫通して床に縫い止めた。
 男は淡々と抵抗の力を削ぐと、肩を強引に外しにかかった。
 エヴァンスの耳にぶちぶちと無理矢理肉を裂く音が響く。あまりの激痛に、頭蓋の内側を直接殴られたような気持ち悪さが爆発し、エヴァンスは嘔吐(おうと)する。
 びちゃびちゃと血の混じった吐瀉物(としゃぶつ)に彼女の服が汚される。エヴァンスの顔は涙と吐瀉物で酷い有様だった。
「おいおい、汚いな。汚いモンを吐く口には蓋をしなくっちゃなァ!」
 そう言うと、男は半分千切れかけていた腕に力を込めると無理矢理引きちぎった。
「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁ!」
「うるせえ! これでも食っとけ!」
 そう言って、引き千切った腕をエヴァンスの口に無理矢理詰めこんだ。
「ちゃんと食えよ!」
 男は怒声を飛ばしながらエヴァンスの口に手をかけ、無理矢理開かせる。その強引さに顎が耐えきれず、ばきばきと音を立ててこめかみから血が吹き出て顎が外れる。
 続いて男は右肘にショットガンの銃口を密着させると、撃った。
 エヴァンスは右肘のあまりに暴力的な痛みに、失神した。
「まだ寝るには早いでちゅよー!」
 男はそう言って優しくエヴァンスの顔を撫でる。いろいろな体液で汚れた顔を、愛(いと)しい女(ひと)を愛(め)でるように。しかし、唐突に力を込め、両の目玉を抉った。
「ん――――――っ!」
 再生禁止が無いだけまだマシではあったものの、『痛み』という感覚を覚えて敏感になった身体には堪えられる感覚では無かった。エヴァンスは痛さのあまりに失神し、あまりの痛さに失神から目覚めさせられる。
「次は、足だよ」
 男は彼女の耳に優しく囁いた。
 その言葉にエヴァンスは戦(おのの)く。
 そうして、エヴァンスは生きたまま解体された。魔族の強靱な身体と精神のせいで、途中で死を選ぶことも狂うことも許されなかった。
作品名:著作権フリー小説アレンジ 作家名:西中