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短編集76(過去作品)

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 と考えてしまう。社会のしくみに逆らうなど到底できることでもなく。それができないのは自分だけではないにも関わらず、自分が臆病だったことに気付く。
 学生時代はいろいろな夢を持つことができ、漠然とした大きな不安があった。大きな不安は社会に出て実際にその中に身を置くことで解消されたが、新たな不安となって現われる。その不安をなるべく小さくしようという試みが、自分の中の臆病さを引き出し、何事にも無関心になってしまうのかも知れない。
――無関心は臆病さから来るものだ――
 と考えることで、まるで自分が子供に戻っているのではないかと思う。
 そういえば、小学生の頃はあまり友達と表で遊ぶようなことのない子供だった。いつも部屋で漫画を読んでいたり、テレビを見ていたりした。ゲームにも凝った時期があったが、何しろ飽きっぽい性格なので、すぐにゲームはしなくなったのを覚えている。
 洋三が友達と遊ぶようになったのは、中学に入ってからである。それまではいじめられっこだったわけではないが、友達と攣るんで遊ぶことが見ているだけで嫌だった。
「自分はその他大勢になりたくない」
 という考えが強く、そんな目で皆を見ていると、もし自分がその中にいたら、本当にその他大勢にしか見えないだろう。しかも、前に出るような性格ではないので、後ろの方で目立たない顔をして、まるで背後霊のようにしか見えないように思う。
 そんな自分が友達の輪の中に入るきっかけになったのは、いつも一人でいる洋三に時々声を掛けてくれる友達がいたからだ。彼は洋三も他の人にも同じように接する。どうしても皆に同調できない人はまわりから少し変わり者もように見られてしまっていたようで、そのことに洋三自身も気付いていた。いや、余計他人の目が気になっていたはずである。
 元々が寂しがり屋なのかも知れない。話しかけてくれた友達に対して、違和感なく話すことができた自分は、もう殻に閉じこもっていなかった。自分に対して自信が生まれたのは、皆と話をするようになってからだ。
「君は人の意見をよく聞いてから話してくれるから、実によく分かるし、説得力があるみたいだね」
 そう言われて嬉しくないはずはない。
「とにかく分からないことはまず人の意見を聞くことだと思っていたからね。それって普通じゃないのかい?」
 サラリとかわすように言った言葉に対しての。まわりの人たちの尊敬の眼差しを感じていた。それが洋三にとっての自信へと繋がって行ったのだし、人とのかかわりの大切さを感じた瞬間でもあった。
――人を差別しちゃいけないんだ――
 皆いろいろな性格で、考え方も違うだろうが、友達として付き合うのだから同じ目線で見ればいいのだ。そう考えると、洋三に他の人と隔たりなく話してくれた友達の気持ちも分かってくる。
 だが、自信を持つということは、まわりが見えなくなってくることでもある。まわりが見えなくなるということは、今度は自信をなくしてしまうと、記憶力がなくなってくることに気付く、それだけ無意識に嫌なことを封印してしまおうとするのだ。
「あなたは本当に人を好きになることなんて、永遠にないわ」
 この言葉をふと思い出した。
 この言葉は美穂に言われた言葉だった。別れ際にひどい言葉で罵れたという記憶がないだけに、すぐ記憶の奥に封印してしまったに違いない。
「そうだ、この言葉を言われてから、無気力になり鬱状態に陥ってしまったんだ」
 なぜ、無気力になってきたか、自分が分からなくなってきたか、思い出してきたような気がする。
 人を愛することが自分にとっての一番の自信に繋がると思っていた。
「人を愛することが、自分を愛してもらうための一番大切なことで、それができるから、自分を愛せるんだ」
 と思っていたのだ。
 だが実際には人を愛するためには相手が自分を愛してくれているという気持ちが前提にないとダメだったのである。自覚はなかった。だから複数の女性と一度に付き合うことができたのだし、美穂と結婚する寸前で、急に結婚をやめようと感じたのだ。美穂にはどうやら洋三の見ている瞳の奥に自分が写っていないことが分かってしまったようである。
「あなたは私をしっかり見てないの。瞳に私が写ってないもの」
 その時は意味が分からなかったが、今は理解できる。
「自分は他の人とは違うんだ」
 この気持ちがすべてに影響しているように思えてならない。
 確かに友達の影響で、人の輪の中に入ることの大切さ、そして楽しさを知った。しかし、その中で埋もれてしまうことは最初から嫌っていた。目立つことのできない自分が悔しくて仕方がなかった。そのストレスが知らぬ間に鬱積していたことだろう。
 ある一点を境に、洋三は子供に帰っていくように思えた。一人でいることが自分自身なのだと思っていた頃、最近の洋三は本当に人と話すのが億劫なくらいだった。無気力さを感じることで、子供の頃を思い出す。臆病だった頃だ。何も考えなくてもよかった時代、今の自分がそうなのだ。
 だが、「のんべぇ」という常連になれる店を見つけた。そこで知り合った女性、それが瑞穂。彼女の影にまるで無気力になりかかった頃の自分を見つけたように思えて仕方がない。自分が今まで感じてきたことが次から次へと瑞穂の口から語られる。その都度自分を思い返してみる洋三だったが、
「この人となら、きっとうまくいく」
 そう感じると今まで子供へと帰りかけている自分に歯止めを掛けられる。
「好きになられたから、好きになる」
 今までの自分はそうだったのだ。だから寸前で美穂と別れたのだし、美穂から、
「あなたは本当に人を好きになることなんて、永遠にないわ」
 と罵られたのだ。
「ずっと前から知り合いだったような気がする」
 その言葉が洋三にトラウマの原因を思い出させ、そして呪縛から解き放ってくれるような気がするのだ。
「ふっと、人の顔が思いつく時があるんだけど、その人は見たこともない顔なのに、何度も会っているような気がしたり、逆に、見覚えのある実に身近な人なのに、初めて見るような気がしたりと、そんなへんてこな感じがあるんです」
 再度、この言葉を思い出した。前者はまさしく、洋三と瑞穂に違いない……。

                (  完  )


作品名:短編集76(過去作品) 作家名:森本晃次