百代目閻魔は女装する美少女?【第七章】
またも何者かの影がスーッと会場の暗闇に消えいった。
オーディションの翌日の新聞に、『足利ヨシミと北条トメが会場外で倒れているのが見つかり、病院に搬送された。』との記事が掲載されていた。ふたりとも意識がないとのことであった。
ここは生徒会室。執事・李茶土が生徒会メンバーの前で話をしている。男嫌いの美緒ではあるが、なぜか李茶土には糸電話を使う気配はない。差別か。
「最近、自分の意思とは無関係に嘘をついて、そのまま無意識状態になるという奇妙な事件が現世で頻発しています。こちらで調べたところでは、なんらかのジバクが関係あるらしいのです。」
「材料はそれだけか。他になにかわかったことはないのか。」
美緒が退屈そうな表情で、机の上に置いた魚籠に話しかける。
「そうです。いまのところはこれだけです。」
「それでは動きようがないな。」
「仕方ありません。発生場所がアキバ周辺であるというだけです。詳しい情報が得られたら、再度連絡を致します。」
「とりあえずは事態の成り行きを見ていくことにしよう。それでいいな?」
全員が頷く中で、絵里華だけは俯いているように見えたが、誰も気づかなかった。
昼間の喧騒が嘘のようなアキバ。夜になるとオタクたちがいなくなり、ひっそりとしてしまう。住宅地ではないし、飲み屋街というわけでもないため、暗くなれば静かになってしまう。もちろん、ひとっこひとりいないということではないが、歩行者天国をやっている時間帯と比べればまったく静かになっている。中心街から少し離れれば中小企業の入った中層の古いビルが多く並んでいるが、こちらも業務が終了すれば社員たちは帰宅の途に就くので、やはり人はいなくなるのである。そんな夜のアキバに現われた絵里華。
(アキバで事件が起こっているんどす。これは放置できないどす。みんなが行かないんなら、うちひとりでも調査するどす。)
そう決断してやってきたのである。
(ジバクだとしたら、このコンビニの周辺に潜んでいるはずどす。ここでぶらぶらしていたら、出てくるかもどす。特に作戦があるわけではないんどすが。うちはおじいちゃんといつもケンカばかりでした。その理由はこのアキバ趣味。)
そう。絵里華はひとりで来たのではなかった。この緑髪ツインテールのフィギュアが大の親友。紅葉院アルテミスと名付けている。実家の苗字を付けているのは家族の証明。
「アルちゃんがいるから寂しくないよ、怖くないよ。」
アルテミスに話しかける時は京都弁は使わない。これは絵里華の決めたアキバルールだ。アルテミスに頬ずりしながら、心なしか涙ぐんでいるように見える。生徒会メンバーの前ではアルテミスが常に喋っているが、『ふたり』だけの時は本体がアルテミスに喋っているのである。
絵里華はしばらくコンビニ周辺を徘徊していた。
「あなた、心に穴が開いているわね。やっと見つけたわ。」
絵里華の前に現われたのは美少女。頭に大きな赤いリボン。赤いワンピース。スカートの裾にはフリル付き。腰にも大きな白いリボン。しかし、胸には黒いドクロのペンダントを付けているのが目を引く。
((な。なに。あんた、誰どす?というより、ジバクはんどすな。やっと会えましたな。))
絵里華はジバクには慣れており、当然びびるはずもない。すでに喋りは本体からアルテミスに転換している。
「アタシを見ても驚かないんだね。というより、あんた自体が人間でないし、アタシと同類だね。そんな人じゃないや、そんな霊を探していたんだよね。やっと出会たわ。」
((どういうことどす?霊を探すジバクはん?そんなの聞いたことないどす。どういう意味なんどす?))
はてなマークを空中に書くアルテミス。
「そんなことどうでもいいでしょ。そうね、せめて名前だけでも名乗っておくわ。アタシは『嘘つき少女』よ。」
胸を張るジバク。小柄ではあるが、胸サイズはそこそこ。絵里華には負けるが、由梨には勝っているようだ。
「ハクション。どこかで、あたしの噂をしているようだわ。やはりセレブは人気者ね。」
生徒会室で、由梨が自慢げにひとりごちた。
「あなた、その胸はホンモノみたいね。でも、その巨乳を生かすような相手、つまり彼氏だけど、いないわね。」
((いきなり、濃い話題を振ってきたどす。初対面なのに、失礼どす。))
「人間じゃないんだから、失礼もへったくれもないわ。その意気の巻き方、やっぱり彼氏はいないんじゃないの?」
((そ、そんなことないドス・・・。))
「急に声が小さくなったわね。じゃあ聞くけど、その彼氏の名前を言ってごらんなさいよ。」
((・・・。))
本体は元々無言。加えて人形も沈黙してしまった。
「ほら、言えないじゃない。」
ジバク少女は勝ち誇りのポーズ。Vサインを絵里華に提示。
((むむむ。じゃ、じゃあ言うどす。))
「彼氏の名前は?」
((名前はひ、ひ、ひ。))
「笑ってるの?」
((そうじゃないどす。ひ、ひ、日乃本、都どす。))
『シュウウウウウ』。低く暗い音が聞えた。
『バタン』。絵里華はその場に倒れた。
「成功したわ。あ~良かった。ルンルン。」
ジバク少女はその場から消えた。
ここは旧保健室。5Fの大きな部屋である。元々あった生徒会室は4Fにあるが、狭いとの意見で、ここが生徒会室に衣替えした。こちらの方が霊界に近く、何かと便利なのであろう。
『さて、これからどうするかなんだが。』
生徒会室の会長専用ソファーにどっかと座り、足を組んでいる美緒。副会長であるハズだが、会長という腕章まで付けている。しかし、糸電話を使っているということは、同じ席にオレがいるということになる。オレは会長ではないとなるといったいどんなポスト?美緒は般若のお面を着用中であることは言うまでもない。
「まさか、絵里華がこんなことになるとはねえ。お嬢様として失格だわ。ホンモノセレブならこいう不躾なことはしないわね。哀れだわ。フン。」
由梨は顔を右斜め上方につきあげて、瞼を閉じた。人によっては、これを見ただけで萌えるハズだ?
「まあまあ由梨たん。そんなことを言わずに、どうやったら絵里華たんを元に戻せるのか、考えないと。」
こういう時は万步が由梨を宥める担当である。
『そうだよな。生徒会副会長代理を助ける算段をみんなで考えないと。でもどうしたらいいのか、見当もつかないけど。』
ここで生徒会役員構成を説明しておこう。生徒会長、都。副会長、美緒。副会長代理、絵里華。副会長補佐、万步。副会長代理補佐、由梨。
「どうして、セレブが副会長代理補佐なんて長い肩書に甘んじないといけないのよ。」
由梨は大層怒っていたが、生徒会長が任命したのだから逆らえない。生徒会長はどんな基準で選定したのかって?直感です。わかるだろう。
オレは糸電話に対して、話かけている。しかも、場所はひとりだけ10メートル離れているので、奇妙というか、滑稽というか、あるいはひとりごとを言う危ない人に見えなくもない。
『とにかく、まずは現状分析をしよう。そこにいる絵里華の様子は睡眠状態だ。』
作品名:百代目閻魔は女装する美少女?【第七章】 作家名:木mori