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百代目閻魔は女装する美少女?【第七章】

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今は道徳の時間。『オオカミ少女』の授業である。その内容をダイジェストしてみよう。
『うそばかりつく少女百合。でもそれがなぜか次々と現実化して、みんなが信用するようになってしまった。次第に百合は予言者と言われてマスコミに取り上げられて、たびたびメディアに出るようになった。やがて百合は「大神少女」と呼ばれ、称賛され、タレント顔負けの人気者となった。実は百合は言霊能力者で、予言はそのチカラの現われだったのである。百合のギャラはウナギ登りで、莫大な収入を得て、いつの間にか大金持ちになった。その財力を活用して、百合は政治家となり、ついに王にまで上り詰めた。国民からは王とは呼ばせず、「大神少女」を称号として、独裁政治を展開した。
百合はすごい美少女でもあったので、男たちにどんどんモテて、アイドルとなったが、ファンになった少年たちが続々と失踪する事件が発生した。事件はすべて迷宮入り。だれにもその謎はわからなかった。
その後も失踪事件は後を絶たず、いつしかこの世から男子はいなくなり、人類は絶滅の危機に陥った。残された女性たちが大神少女に助けてほしいと懇願した。「わかった」と百合。
百合は、女性同士の交配をみとめると詔(言霊)を出した。男女でないとだめだと思われていた秘め事を礼賛する本やゲームを多数出して、意識改革。洗脳ともいうが。
こうして百合族が生まれて人類は危機を乗り越えたということである。』
「どうして名前がゆりなのよ!」
怒る由梨。
 由梨のことはとりあえずスルーして、オレは違う反応を示した。『神』に関する話なので、美緒に話しかけてみる。
『童話で聞いていた『オオカミ少年』」の話とはちょっと違うな。』
『まったく違う。神たちもかつて人間であったから、その話は知っている。これは言霊信仰のひとつなんだ。こうして、言霊がいかに世の中に貢献しているかを訴えるというものなんだぞ。』
『そ、そうなんだ。出版社やゲーム会社の策略のような気がするけど。』
『これはファンタジーなんだぞ。そんな現実を直視するような見方をするもんじゃないぞ。』
『はあ。』
『それに、恋愛は男女間だけでない。同性同士でもあり得るという大変貴重な意見を提起したという問題作なんだぞ。』
『はははあ。』
 こじつけのような話に十分な理解ができない都であった。

『ピンポンパンポン、ピンポンパンポン』
「いらっしゃいませ~。」
 深夜のコンビニに響く掛け声。こんな時間の来店客には大きな声をかけることが防犯上非常に重要かつ有効である。こうして歓迎しつつも警戒しているということをごく自然に訴えているのである。アルバイトも大変だ。
「た、助けて下さい。き、気持ち悪いんです。」
突然店内に倒れ込む女の子。18歳位に見える。酔っ払いなのか。飲酒はいいのか?
「どうされました?大丈夫ですか。」
 バイト店員の男子学生は女の子に駆け寄る。彼女は床に両手をつく。そして。
『オエオエ~!』
やり始めてしまった。ヤバい。泥酔状態なのか。これでは掃除の行き届いたフロアが『特性お好み焼き』まみれになってしまう。
「気分が悪いんです。救急車を呼んで。お願い。」
 絞り出すように、声をあげる。
「わ、わかりました。すぐに手配します。」
 店員はとりあえず、客を床に寝かせて、電話をかけるため、バックヤードの事務所に駆け込む。大急ぎで119番通報。こちらの所在地、現状を説明する。すぐに店舗に戻る。
「いない!いったいどこへ行ったんだあ!」
 思わず叫んだ言葉が誰もいない店内中にこだまする。
(うまくいったわ。あたしの能力も大したものね。)
 カウンターの下に隠れていた何者かが、何事か呟いてコンビニから姿を消した。
 こんな事件が現世で横行している。マスコミはこれを『オエオエ詐欺』と表現するようになった。普通の学校でもこの真似をする生徒が増加してきた。この年の流行語大賞候補にもなっている。ただし、この話には続きがある。
「変わりまして、『オエオエ詐欺』のニュースです。昨日、東京都あきれた野市のコンビニで発生した事件の続報です。同店で救急車を依頼した少女が付近の河原で発見されました。生命に別状はないのですが、ひたすら眠っており、警察の呼びかけにもなんら反応をしません。他のケースとまったく同じ症状です。意識不明状態になった他の『当事者』と同一です。コンビニなど店舗にとっての加害者なのか、倒れているので被害者すべきなのか警察も断定できないので、いまのところ、『当事者』という表現で統一しております。」

「それでは第3回さわやかファンタジックアイドルオーディションを開催致しますう~!」
 赤いバラを黒いスーツの胸ポケットに差した男性アナウンサー。マイクに肺活量一杯の二酸化炭素をぶつける。ここはアキバの某ビル。すでにステージには30人位の女の子が思い思いの衣装で待ち遠しそうに並んでいる。暖色系が目につく。この地では、コスプレやオタク向けアイドルを大量生産しているが、そういう風潮に反旗を翻して、どこからともなく、正統派アイドルを発掘しようという運動が発生した。トリッキーなことがいつまでも王座に留まることは難しく、原点回帰という現象につながった。世の中の大多数はオタクではないからである。
 このオーディションの参加条件は15~18歳の女の子。必要以上に低い年齢でないのがいかにも正常に見える。次々とステージの中央に出て、自己アピール。アクロバットをやったり、変顔をしたり、魔法少女の格好をしている者はひとりもいない。懐かしの80年代を感じさせるようなファッションばかり。見ていると安心感が広がる。アイドルとはかくあるべしと痛感させられる。
「エントリーナンバー27番足利ヨシミ、16歳です!」
 登場したアイドル志望生は年齢詐称。ツンツン髪を左右に立てている。身長は130センチに満たない。濃いピンクのワンピース。スカート部分は膝上30センチでかなり短い。膨らみが確認できない胸には『あしかがよしみ』という名札。どうみても10歳位なのに、16歳?
ステージ下にいる審査員たちがざわつき始める。ほとんどが眉を顰めている。しかし中には回りを気にしながらも、涎を拭いている者もいる。髪は長いが、ブラッシングが不十分で、解れている。喜びを隠しきれないようだ。隠れロリだ。
足利ヨシミは自己紹介をしたあと、そそくさと袖に消えた。
「それでは次の候補者どうぞ。」
 アナウンサーは会場の喧騒をよそに、マイクパフォーマンスを継続する。
「登録番号二十八、北条トメ、18歳じゃ。」
 そこに登場したツインテール。髪を銀に染めている。いやこれは白髪だ。しかもツインテール。どう見ても60歳にしか見えない。一言醜悪。
「帰れ。ニセモノ!」「くそババア!」「ここは老人ホームじゃねえ!」「介護は俺にやられせてくれ。」
 いろんな意見がある。北条トメはそそくさとステージを去る。何しに来たのか。
 最終審査の発表が行われたが、足利ヨシミと北条トメはすでに会場にはいなかった。どうせ合格しないだろうということで、そこから姿を消したのだろうか。
(今回もうまく嘘をつかせたわね。ちょろいものだわ。)