短編集 くらしの中で
その三
私は三十代になってからはとても楽に暮らせるようになった。
夫が婿に入ってくれたからだ。
夫は周辺の男らととてもうまくやってくれた。
それに母子家庭というハンディも解消され、馬鹿にする人もいなくなった。
母親の職業は女医であっても母子家庭は母子家庭なのだ。
職場ではそうでもないだろうが、一歩私生活に戻れば軽く見られる。
10代20代はそんな環境の中で私は過ごしてきた。
母親は「どんな男でもいないよりはいた方が良い」とよく言っていた。旦那がおればどんな男でものうのうと暮らしているとも言っていた。
私は自分で相手を見つける裁量がなかったので結婚より勉強のほうを選び、最終的には28歳まで学生生活を送った。
卒業と同時にひょんなことで夫と知り合い結婚し子供が二人産まれて、私の念願だった平凡で目立たない暮らしが始まった。
子供のことでは色々と問題が起きて大変だったが、夫がいることでそれもどうにか乗り越えられて、人とのトラブルは一切なくなり対外的には「奧さん」という立場で外敵のいない生活が送れたと思う。
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子