短編集 くらしの中で
その四
夫が10年余り脳の病気をしてからは苦労をしたが、対外的に他人にやられることはなかった。夫が倒れてから療養生活に入り再々救急車で運ばれたのち、亡くなった。
子供たちも心強い大人へと成長し、私はひとりで気楽に暮らす身分となっている。
そこから始まる第二の人生において、人との交わりは自分一人で闘わなければならなくなった。
相手は旦那さんがいる人がほとんどだし、いない人も子供と同居している人ばかりなので完全に独り住まいの者はほんのわずかだ。
母親のした反面教師で習得した生きて行く術を発揮する時が来たのだ。
人を大切にすることを心がけること。
人には甘えることなく気持ちだけでも与えるほうを選ぶこと。
威張らず、相手がひどいことをしても決して抗わないこと。
反面教師は数えきれないほどのことを教えてくれた。
老いてからまともな友人が一人もいないような身にはなりたくない。
今の年齢になっても、選り好みをし好き嫌いで付き合っている隣人もいる。
一人が楽しくてたまらないと、人との付き合いを拒否している人もいる。
それらの人はやがてくる老いの時期がどんな状況なのか多分わかっていないのだろう。
だって、私みたいに反面教師がいないんだから。
多分他人は遠ざかり寂しい暮らしになること間違いない。
反面教師さんありがとう。
これからは温かい老後が送れるような気がする。
完
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子