短編集 くらしの中で
その二
母親の養育が私に影響を与えた事柄は多々あるが、のちになって思うに、良いことを教えられたことより反面教師で後の人生で役に立ったことの方が多いように思う。
具体的には数えきれないほどある。
中でも母親が人を大切にしないということが私に影響を与えたことで、自分は絶対に人を大事にしようと若いときから決めていた。
近所には同じ年頃の子供は少なく、話すのは母と同年配か少し年下のおばさんばかりだった。
母が仲良くしていなかった人は私にも愛想が悪く嫌な気がしたが、私はそれらの人にもいつも先に挨拶をしていた。
おばさんたちは子供時代の私や10代20代の私に意地悪をする人はいなかった。
小さな村落の中で私はひとりひとりに丁寧に話をしていたのでまだ若い二十歳前のころ、「なんとよくできた子」だろうと噂をされていたようだ。
当の本人は自分の家に対して悪意を持たれまいとしてそのような振る舞いをしていたことなので子供としては相当ストレスを感じていた。
子供は少々ぶっきらぼうでも良いのだ。
親同士が仲良くしていればそれでうまくいくものなのだ。
でもうちはそうはいかなかった。
私が頑張らなければ村八分になりそうな気がしていたからだ。
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子