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短編集 くらしの中で

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その五



翌年再び元の予備校の国内の大学を目指すコースに入ることになった。
アメリカに行く前に居た下宿のおばあさんにも優しくしてもらっていたが、勉強はほとんどせず予備校へ行っても絵を描いていたという。

四月に入学し暫くして、おばあさんの下宿から一人部屋のアパートに移った。予備校の先生方には至れり尽くせりの世話をしていただき、アパートも探して下さったようだ。

勉強をしないのでその年の暮れには早々と帰宅したが、このころから俄然意欲が出て毎晩遅くまで勉強し、朝起きてきてもいつも英語の単語を離さず見ていた。社会や歴史の勉強も分厚いノートに細かく整理して全部覚えていた。


その年が終り、翌年の一月七日。神戸大震災の報がテレビで流れた。
娘が借りていたアパートの前の高架が横倒しになっているのを見た。

娘は受験校を三校自分で決めた。
こんな辛い人生を人はどうして生きているのだろうとの疑問を解くべく哲学科を選んだという。最初は滑り止めの宗教色の濃い大学を受験した。

二番目の大学は本命で、東京へは独りで出発した。手続きも皆自分でやった。
神奈川在住の長女の家から東京の受験会場まで出かけた。

どちらの大学からも合格通知が来て、二番目の大学の合格が決まった時には母も一緒に四人で寿司屋に行きお祝いをした。
私と夫は三番目の大学のことは知らなかった。受かるとは思っていなかったので秘密にしていたようだ。

三番目の大学の受験に行くときそれが発覚し、前回と同じように姉の家から受験に行った。三つとも終わり、やれやれという気分になり姉と二人でスケートに行ったと聞いて私もうれしかった。

帰宅と同時に娘は高熱を出した。なかなか熱は下がらず寝込んでいた。
三番目の大学から封書が届いた。

これ、届いたよ、というと熱に浮かされている娘は受かってないやろといった。
受験番号は? ●●●●番。ここにその番号載ってるよ。嘘でしょ。見てごらん。
合格していたのだ。
六大学の内でも難関の大学で、姉も受験したが見事落ちた大学に合格したのだ。



作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子