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短編集 くらしの中で

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その四



次女の留学先の情報は日本の学校を通して送られてきた。カナダで馬に乗っている楽しそうな写真を見て安心していた。夏には北海道で行われるセミナーの為に帰国していたようだ。
塾長は発破をかける為に何かの事でひどく叱り、娘は鼻水を垂らして泣いたと聞いた。一ヵ月間のセミナーが終ると集団でアメリカに発ったとの報も入った。

アメリカでの新学期は九月からで、早速二年生に進級した。
寮の決まりで新入生には優しくするというのがあったらしくそれまではどんな行為をしても許されていたのが、二年生になるとがらりと変わった寮生の仕打ちに耐えられなくなった娘は自殺をしようとしたが命に別状はなく、病院に入院し回復した時点で帰国させるとの報が入った。

関西空港へ翌日の夕方着くとのことで、私は夫に空港まで送ってもらい飛行機に乗って大阪に着いた。夕方娘が一人で帰国してたちまち迷うだろうとの思いで必死だった。翌日は台風の予報も出ていた。

夕方飛行機から下りてきた娘を出迎えた。娘は病み上がりのように青い顔をして寡黙だった。その夜は空港の近くのビジネスホテルに一泊して飛行機と電車を乗り継いで帰宅した。

家に着くと心配していた夫と私の母が出迎えてくれた。
娘は自宅で休養することになった。

私は友達がノイローゼになった時に読んだという森田療法という本を買って娘に読ませた。娘はその本に書いてあることが立ち直りのきっかけになることを知り、働きたいと言い出した。近くの弁当屋の募集の張り紙を見て、そこで働くことにしたと言った。

元気を取り戻した娘は毎日せっせと弁当屋に通い、休みの日にも出かけて調理場の掃除をしていたので主任になる女性に気に入られ居心地は良かったようだ。

翌年の春まで弁当屋で働き、春から予備校へ行く気になって弁当屋の女性に励ましの言葉やプレゼントをもらって別れを惜しんだらしい。弁当屋のアルバイトは終止符を打った。

作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子