短編集 くらしの中で
その六
二人の娘たちはそれぞれ大学を卒業した。長女は就職をし、次女は結婚した。
彼女らのその後の経路は全く別の道を歩み、私は背負っていた重荷が一つずつ軽くなって行った。
その後長寿だった実母を看取り、相次いで長い闘病生活を送った夫も逝った。
他県まで出かけて滞在し次女の孫を共に育てた10年あまりは私の苦楽の思い出の一頁となり、今は娘から送られてくる成長しつつある孫の写メールを楽しく見ている。
私が自宅に居付いてからは高校の友達や以前のグループの友達、ご近所さんと話す機会も増えた。今では勝ち組負け組の競争の対象は他人ではなく自身の健康状態に移った。みんな自分の生活と健康を守るのに必死の年代が来たのだ。
過去に煮え湯を飲まされた隣人でも、心身共に衰弱し白旗を揚げて頼って来れば手を差し伸べざるを得なくなった。
これから先の十数年は誰かを思い、見守り、自分自身を慈しんで歩いて行きたい。
完
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子