短編集 くらしの中で
その二
私はそういう環境の中で育った。
母ひとり子一人の家庭であった。
母親は医師だったので社会的には知識人として尊敬されていたので、自身のプライドは高かったと思う。
他者を学歴でのみ判断し、自分を立ててくれる者だけを受け入れた。
当然の結果として敵となる存在も生じ、母の敵から私は好意を持たれなかった。
私は子供ながらに息苦しく、他人と闘えない人間として成長したのだ。
その悔しさを勉学に励むことで解消したきらいがあるが、それが亦敬遠される原因ともなっていた。
私が、どのような者にも守護神があることを知り、同等の目線でみる、それどころが尊敬する視点が違ってきたのは夫と結婚した20代の後半だった。
見解が違う二人が毎日のように諍いをしたのは、相容れないものを近寄せる為の必然の成り行きだったように思う。
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子