光は空と地上に輝く(2)
LINEのグループにメッセージを送った。流架と遥と直樹の私の四人のグループだ。もちろん既読は二つしかつかない。既読が三つ付く日はいつ訪れるのか、考えるだけで気分が暗くなる。ふたりから予想通りの返事が来て安心した。
遥 「なになに?珍しくない?」
「香歩の頼みなら何でも聞くよ!」
直樹「たしかに珍しいね」
「会って話聞こうか?」
香歩「ありがと」
「じゃあうちに来て」
遥 「おっけー!」
直樹「わかった」
一時間後、二人が家に来た。
「それで、手伝ってほしいことってなに?」
私は、ふたりがこれから言うことを信じてくれると願って、話すことに決めていた。流架を医者でもない私たちが助けられるなんて普通は信じてくれない。私も百%信じ切れていないし。しかもその方法が夢に出てくると聞けばなおさら信じられないだろう。でも私は、ふたりの友達にかけることにした。友達なんていなかった私の最初で最後の親友たちに。
「信じられないかもしれない。でも、私はふたりが信じてくれると思ってる。私の唯一の友達だから。」
私は呼吸を整えて、言った。
「私、流架を助けたいの。」
私はふたりに話した。ある日、幼なじみの翔からLINEが来て流架を助ける方法があり、流架を助けるにはやらないといけないことが五つあると言ったことを。そして私は、それを今やっている最中でそれを手伝ってほしいとふたりに言った。ふたりは何も言わずに最後まで聞いてくれた。
「私は信じるよ!もちろん手伝う!」
「僕も。流架を助けたいのは一緒だからね」
安心して目から雫が流れた。
「ありがとう」
「何で泣くの?私は香歩の味方なんだよ?泣かないでよ。私まで泣けてきちゃうよ」
女子ふたりで、抱き合いながら泣いた。落ち着いてから遥が聞いてきた。
「そうだ。さっき唯一の友達だからって言ってたよね?友達いなかったの?」
「うん。中学の時は学校に友達なんていなかった。幼なじみはいたけど、途中で連絡とれなくなって。」
そして私は、中学の頃の自分の苦い思い出を記した一冊の本を、信頼できる二人に見せた。
~中学生の私~
「このドラマ面白いよね!」
「主演の俳優タイプ!」
「あー!早く次見たい!」
私はクラスの女子と他愛もない話をして盛り上がっていた。
「香歩ー、どっちの俳優タイプ?」
「私はこっちー!早希は?」
「やっぱそうだよね!香歩とはホント気が合うなー。」
この三日後、ある偶然によって私たちの歯車は狂いだした。原因は、私と親友と思っていた早希との間の歯車が狂いだした日の前日の出来事。
~前日~
「翔、おまたせー」
「よし、じゃあ行くか」
私たちは近くのカラオケ屋に向かった。受付を済ませて部屋に入った。それから三時間歌って部屋を出て会計へと向かった。
「あれ?香歩じゃん!ん?もしかして彼氏?ごめん!邪魔しちゃった?」
ちょうど早希とその友達がカラオケに着たところだった。偶然会った。早希たちは三人して翔を見た。そして私を少し離れた場所につれていって聞いてきた。
「超かっこいいんだけど!誰?」
「私の幼なじみで、今付き合ってるの。」
「へぇーそうなんだ」
その時の早希の顔は、私への嫉妬で、本当の悪魔のようだった。翔のところへ戻ると、
「お邪魔しました。じゃあね香歩、また明日―」
「じゃあねー」
そう言って部屋に向かって歩いていった。
「今の、同じ中学の子?」
「うん。」
私はあの顔を見た時から不安でしかたがなかった。
~その日~
「おは……」
私は教室に入ってすぐ、言葉を失った。
「香歩LOVEイケメン君」、「香歩リア充」
それが黒板に書かれていた。黒板の横には早希が立っていた。明らかに楽しんでいる。そして、私に気づくとすぐに早希は教室を出ていった。クラスの女子は全員、わかりやすく私を避けていた。そしてつららが私の心に何本も突き刺さる。男子は、「河合、これホントかよー」「おめでとう」。そう言ってきた。男子たちに悪気はないのだろうけど、この瞬間私の学校生活に暗雲が立ち込めた。
「おはよう。ってなんだこれ?誰が書いたんだ。河合、これ本当なのか。良かったな。楽しそうで何よりだ。じゃあ皆読書して。」
そう担任が言った。良かったな、楽しそう…私は心の中で叫んだ。「なんで!なんで楽しそうに見えるの!」と。
私はその日のうちに、完全に孤立した。それから毎日、冷たい目で見られ、誰にも相談できず、私の心は少しずつ着実に壊されていく。二週間後、いじめはエスカレートした。早希たちと話していたドラマで出てくるいじめとは違って、早希は私を精神的に追い詰めていった。トイレに行けば、水をかけられないかわりに目の前で悪口を言われ、放課後は、暴力は振るわれないけれどずっと私を蔑んだ目で見るか、笑って通り過ぎていく。
一ヶ月後、私は学校に行かなくなった。もちろん翔には内緒で。翔と遊びに行く時は早希たちと会わないようにわざと遠くに行った。
三か月後、翔が遠くへ転校し、私は家族以外に頼れる人はいなくなった。
~高校生の私~
早希たちと同じ学校にはなりたくなかった私はこの学校に来た。私は、友達は裏切る、そう考えてひとりで過ごすことを選んだ。英語の時間のペアワークでは、教師に何を言われてもペアワークは一切笑わずに流れ作業のようにこなしたし、担任との面談でも、教師は全員クズだと思って何もないと言ってさっさと面談を終わらせた。無視すれば怒られて無駄な体力を使う。だから少しは関わりをもった。そして、私は朝から帰りまで常にひとりで過ごした。音楽と家族だけに癒しを求め、それ以外には一切関心を示さなかった。
~高二の私~
流架、遥、直樹、この三人は信用できる。誰よりも。私、変われるといいな。
本に書かれた文章はここで終わる。
「心の日記」。心が壊れかけた私が心を保つために表紙にそう書いた日記帳。それを読み終えたふたりは、ノートをゆっくりと閉じた。そのタイミングで私はふたりに言った。
「ごめんね。最初の頃、話しかけてくれたのに無視しちゃって。私、三人のおかげで変われた。ホントにありがとう」
今までずっと言いたかったことを言って、私は笑いながら、泣いた。その涙とともに、残っていた暗雲はきれいに消えた。そして、心の底から思ったことを最後に言った。
「三人と出会えてホントに良かった。」
言い終わった瞬間、遥と直樹は私を見た。私の心に刺さって残っていた冷酷なもやをかき消してしまうほどの暖かい目で。そして、ふたりの言葉が心を癒した。
「僕は香歩をいじめた奴らが許せないよ。香歩はずっと僕の友達だから」
「私も。早希って奴も担任も、香歩を傷つけたやつを許さない。これから香歩を傷つける奴も許さない。ずっと、ずーっと香歩は私の親友だよ」
「ありがとう…」
私は嬉し涙を流した。そんな私を遥は、私の頬をつねって笑わせてくれた。直樹は、自分の涙を拭いながら、私が落ち着くのをただ待ってくれていた。そして、落ち着いた私に直樹が言った。
「僕たちは絶対に香歩を裏切らないよ。だから、今は流架を助けよう。それで、なにすればいいの?」
私は部屋にヒントがあることを話した。
作品名:光は空と地上に輝く(2) 作家名:MASA