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光は空と地上に輝く(2)

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「部屋ねぇ。流架の家って遠い?近いなら部屋行ってみたいんだけど」
「それもそうだね。僕たちが見ても何もないかもしれないけど見る価値はありそう」
すぐに電話して家に行けることになった。
「じゃあ行こ!」
ものの一分で着いた。
「ちかっ!!こんな近くに住んでんだ…。さすがにマンションは違うと思ってた。そりゃ毎日一緒に登下校するわ。いつでも会えるとか羨ましい!」
 遥が驚くのも無理はない。クラスのみんなは私たちの家が近いとは知っていたが、同じマンションにあるとは知らなかったのだから。
「たしかにこの近さには驚くよ。でもそれより、とにかく部屋に行こう」
三人で探してもなにも出てこなかった。直樹が真剣な顔で聞いてきた。
「本は流架のものなんだよね?なら、家に流架から借りた本とか自分で買ってない本とか何かない?」
「あ!ある!自分で買ってない本!」
 一一冊目。見たことのない本。なんの思い入れもない本。ただあの時のママの反応が気になり続けていた。本当にママの本なのか。二人を連れてもう一度聞いてみた。そして、ママは覚悟を決め、私の目を見て言った。
「黙っててごめんね。それは、翔くんから渡された本の代わりにママが置いた本。香歩がいない時にママに預かっててほしいって言われたの。そして、ある時、それを香歩に渡してほしいって。ママね、それを読んでみたの。最初は全部は読めなかった。読みたくなかった。何日か経ってから全部読んで、それでも香歩には渡せなかった。だから、その本はママの本と入れ換えて棚に入れた。本物は違う場所にあるの…。」
母は私の部屋のクローゼットから取り出した本を手渡した。
「はい。これが本物。買い物行ってくるね。最後までちゃんと読むんだよ。」
翔がママに渡した「本」。私でさえ一度も見たことがない。
 日記だった。私のことばかり綴られていた。私がひとりだったこと、翔だけが心の拠り所だったことなど、翔には気づかれていないと思っていたことがたくさん書いてあった。
 しかし本当に読めなかったのはその次からだった…。
私の中では、翔は転校したはずだった。
「ほんとごめんね。」
「翔が悪い訳じゃないよ。でも寂しくなるなー。」
 翔は転校することが決まったらしく、すぐに私に会いに来た。皮肉にもその日は晴れていた。心は厚い雲におおわれた。
でもこれは日記の続きに書いてあることとはまるで違っていた。




~日記~~

 九月二五日
余命宣告されちゃった。何もしなければ余命は一年だって。一度はそれなりに回復したのにな。香歩に伝えるべきか迷うな。
 二六日
定番だけどやりたいことを五つ考えた。
① 香歩とまた映画に行く
② 香歩とあの場所に行く
③ 香歩と夕日を見る
④ また外国に行く
⑤ 香歩に一人を卒業してもらう
それまでは絶対に死なない!そして、香歩には何も言わない。
二七日
治療が始まった。前回よりもきつい治療らしい。でも香歩に会うために乗り切る!
 二八日
かなりきつい。でも香歩に会いたいから頑張る。一回は完治させたんだから
 二九日
少し楽になった。抗がん剤はいやだ。
 三〇日
数値は変わらない。香歩元気かな?
 一〇月一日
香歩とどこかに行きたいな
 二日
もう少しで一年か。短かったな。もっと香歩と一緒にいたい
 三日
一年記念にどこか行こう!どこが良いかな。映画も良いし、あの場所に出かけるのも良いし、香歩を驚かせよう。
 四日
記念日に退院許可もらうために今日から治療がきつくなるって。香歩に会うために頑張ろう。楽しみにしててね香歩
 五日
しんどい。
 一一日
だるくてあまり動けない。しばらく日記も書けなかった。でもあと四日の辛抱
 一二日
夜にこっそり抜け出して屋上で夜の空を見た。香歩、元気かな。香歩は見てるかな?笑
 一三日
今日は副作用も無くて体も楽だった。このまま治ってくれるといいんだけどな
 一四日
いよいよ明日!超楽しみ!やっと香歩に会える。香歩に気づかれないように元気なふりしないと。
 一五日
①②③達成!きれいな夕日と真っ赤な頬をした香歩。晴れてくれて良かった。良い一日になったな。改めて、一年おめでとう、自分。目指せ二年
 二一日
治療が変わった。親は何も言わないけど、延命治療だろうな。本当は余命もうちょっと短かったのかも。
 二五日
海外旅行してたら香歩を元気づけられなくなっちゃうから、国内旅行することにした。いつでも香歩に会いに戻ってこられる距離。でも全国を回るから中学卒業までかかるかも。もしかしたら途中で倒れて戻ってこられなくなるかもしれない。香歩には転校って嘘をつこう。
 二六日
これから香歩のお母さんにこれを渡す。レコーダーと一緒に。死んだ時に香歩に渡してもらう。少しでも香歩の支えになれるといいな。
 香歩へ
何も言わなくてごめんね。香歩の笑顔を見たかったんだ。わがままでごめん。昔からずっと一緒で、ほんとに楽しかったよ。香歩が幼馴染みで、彼女で良かった。大好きだよ。本当にごめんね。幸せにね!
 
日記はそこで終わった。私と翔、ふたりの涙で字がにじんでいるところが何ヵ所もあった。
翔は一度も弱い自分を見せなかった。私のために。私はなにも気づかなかった。その頃の私の唯一の友達だったのに。
レコーダーを流した。

『香歩!やっほー!香歩のことだから泣いてると思うけど、少しでも香歩に元気出してもらいたいから言わせてね。
香歩、頑張れ!
何かあったらこのレコーダーを聞いて元気出してね。このレコーダーは香歩が好きなようにしていいよ。ずっととっておいてくれるとすっごい嬉しいけど、いつまでも香歩を縛りたくないから捨てていいよ。とにかく、元気出してね!じゃあ、ばいばーい』

涙が止まらなかった。翔はただ転校しただけだと思っていたから。翔はいつも笑っていたから。
「本当は私の近くにいたかったくせに。ごめんね翔。」
 隣にふたりがいるのも忘れてひたすら謝って、日記を抱いていた。翔を知らないふたりは、それでも泣いている私に寄り添ってくれた。
「私ずっと香歩の友達だよ。香歩がイケメンと付き合っても、喧嘩しても、ずっと。今もうイケメンと付き合ってるしね」
いつもの遥のいじりで笑った。
「僕もだよ。ずっと友達。だから、僕たちのもう一人の友達を助けよう!絶対に!」
 笑いながら泣いている私に、力強くそう言う直樹。その言葉に私は涙を拭って、そして日記とレコーダーをアルバムが入っている机の中にそっと入れた。
「ふたりともありがとう。流架のためにまだ手伝ってね!」
ふたりが帰ってから、日記を何度読み返した。寝る前に日記を表紙が見えるようにして本棚においた。私の味方がそこにいるだけで、安心感に包まれた。翔に会えることを願って寝た。
    

~その日から一三日後~

結局この日は翔とは会えなかった。
リビングに向かった。朝日が雲に隠れていた。ママは疲れた顔をしているがいつもと変わらず笑っている。それでも昨日あったことを忘れてはいないはずだ。少し気を重くしながらママの隣に座った。
「おはよう」
作品名:光は空と地上に輝く(2) 作家名:MASA