光は空と地上に輝く(2)
「香歩、流架を助けたいなら、『ここ』に来て。」
香歩「『ここ』ってどこ?」
翔 「それは香歩が自分で見つけないと意味がないんだよ。じゃあ終わったら教えてね!」
ベッドから起きた私はすぐに家を出た。そして流架がいる病院に着いた。
「流架。私が助けるから待っててね。」
私がやるべきことは一つ。流架を助けること。絶対に助ける。待っててね流架。
私の目には光がよみがえっていた。私は走り出した。ただ流架のためだけに。
家を出た私はすぐさまバスに乗った。ここからあの場所までは一時間近くかかる。バスに乗りながら考えた。
『ここ』を探すって探すほどでもないじゃん。何度も一緒に来たんだよ?なんで探さないといけないの?もしかして違う場所なの?でもあの場所以外に翔が『ここ』って言いそうな場所はないし。
「次は、みなみ公園前、みなみ公園前」
バスはあの公園に着いた。すぐさま翔と夕日を見た場所に向かう。広い公園をゆっくり進む。湖の周りにある紅葉の葉はすっかり緑になっていた。今でも湖は綺麗なままだ。そして、その場所に着いた。そこにはあの時と変わらない景色が広がっている。
香歩「懐かしいね、翔」
すぐさま翔にLINEを送った。
翔 「今どこにいるの?」
香歩「翔と夕日を見た公園だよ」
翔 「どんな感じ?」
香歩「あの時と変わってない。湖があって、木があって…。違うのは太陽の場所と季節だけ。
冬が一番いいな。」
翔 「写真撮って送って!」
私は写真を二枚撮って送った。一枚は夏の景色、もう一枚は朝の太陽。
翔 「朝は朝でいいね!やっぱり冬の方がいいね!」
香歩「うん!」
香歩「ねぇ、これで本当に流架を助けられるの?ただ遊んでるだけにしか思えないんだけど…」
翔 「助けられるよ。でもまだできない。もう少し時間が必要なんだ。」
香歩「ずっと思ってたんだけど、どやって助けるの?翔にできるの?」
翔 「助けるのは僕じゃない。流架自身でもない。君だよ、香歩」
え?私なの?でも、どうやって…。私は訳がわからなくなった。
「君があることをしたとき、流架は助かる。でも、そのあることは僕も知らない。知ってい
るのは香歩と流架だけなんだよ。でも僕はそのヒントだけは知ってる。夢で流架に言われ
たんだ。『答えは香歩たちが知っている。その手助けをしてほしい』てね。」
香歩「少しでも流架が助かる可能性があるなら、私はやるよ。だから教えて。あることって
何?」
翔 「五つあるんだ。一つ目は今日終わらせた。『ここ』に来るっていうこと。二つ目はあるもの
を探すこと。ヒントは大切なものだって。三つ目以降は一つ前を終わらせないと教えても
らえないんだ。終わらせる度に夢で教えてくれる。」
香歩「わかった。とにかく家に戻る!」
私は公園で前みたいに湖を見てから家に戻った。そして、果て無く続く空を見つめた。
家に着いた私は探し物がなにか考えた。私の部屋にあると何となく思った。私の部屋にあって、翔…じゃなくて流架に関係あるもの。流架に関係ある…?
その瞬間私は玄関を出て走り出した。
「流架に関係あるなら、行くべき場所は翔と夕日をみた場所じゃなかった!あの桜のトンネルとか日向ぼっこした丘とか、流架と一緒に行った場所!急がなきゃ!」
何で翔は何も言わなかったのか気になったが、とにかく私は急いで向かった。
バスにまた乗って、まだ明るいうちにさくら公園に着いた。すぐに桜のトンネルに向かった。カーペットになっていた道、告白の時に後ろにあった桜の木も見た。でもなにも変なところは無かった。すぐに丘に向かった。あの日とほとんど同じ状況だった。そしてあの日と同じ場所に寝そべってみた。それでも何もかもが同じに見えた。唯一違うものは…太陽と雲?そしてピンときた。
「大事なのはこの『場所』じゃなかった…。『空』だったんだ…。」
果て無く続く不安をかき消す輝かしい太陽が欲しい。そう思ったけれど、そのために私はできることをしようと思った。とにかく今は家に向かおう。
家に戻った私はまた考え始めた。とりあえず部屋に行った。
まずは机の引き出しから調べた。最初に引っ張り出したのはあの手紙だった。
中学の頃の翔は受験が終わるまで携帯をもっていなかった。だから翔から手紙がたくさん来ていた。この手紙は全て大切なものだった。だから枚数は確実に覚えている。全部で三〇枚。全てを確認することにした。
翔からの手紙を開いてみた。
一枚
また一枚…
読むと翔との時間を思い出して楽しかった。でも同時に恥ずかしさもあった。一枚を読み終わるのにそう時間はかからなかった。
最後まで読み終えたがこれといって関係ありそうなものはなかった。
次に本棚に向かった。全部見るのはさすがに気が引けた。その時、思い出した。その本を手に取った私はすぐにママに聞いた。ママはテレビを見て笑っていた。
「ママ、この本の事ホントに知らないの?」
本を見せた瞬間、母の顔が曇った。さっきの笑い顔はすっかり姿を消していた。何があるのか不安になった。でも、ママの言葉を聞いて不安は消えた。
「実はね、それは昔ママが読んでた本で、しまう場所が無くて、でも見える場所においておきたくて、勝手に置いてたの。ごめんね」
「それなら先に言ってよ~聞いた瞬間に顔曇らせて、も~ビックリしたよ」
翔とも流架とも関係なかった。何てややこしいことをしてくれるんだ。気を切り替えて他の本を見てみた。翔に貸したことがある本や好きすぎて何周もした本などたくさんある。とりあえず関係ありそうな本を全て出してみた。一〇〇冊近くあった。とても短期間で読み終われそうになかった。そう思った私はLINEを開いた。
香歩「時間制限ってあるの?」
翔 「時間制限はないよ。でも早く見つければ見つけるだけ流架に早く会えるって考えたら早い
方がいいんじゃないの?」
香歩「OK!ありがと!」
結局一〇〇冊の中で特に思い入れがある一〇冊だけは読むことにした。ただ、外にはもう太陽は見えない。いまから読んだとしても読み終わらないと思った。それで読むのは明日にして、残りの手紙を読み始めた。ずっと手紙を読んで、いつの間にか寝ていた。
~その日から九日後~
私はベッドから体を起こした。まだ朝の七時半だった。でも、本を読み終えるには最低でもまる一日必要だった。何回か読んだことがあるとはいえ、結局三日かかるとは思っていなかったけれど。
最初の一冊。何年か前に映画化されて話題になった小説。
翔は映画版しか知らなかったから、といっても好きな女優が出ていたから見ただけだったらしいけど、私は小説を勧めた。一週間後、翔は目を輝かせて
「小説の方が面白いじゃん。まぁ映画も映画でいいけど。」
なんて言ってきた。それがきっかけで翔は私から本をよく借りるようになった。少しでも先が気になると読むのが止まらなくなった翔は早いときは一日で返してきた。
「ちゃんと読んでんの?内容言ってみて!」
疑ってかかる私に翔は当たり前のように内容を言いあてた。本当に読んでいるのはわかった。早すぎる気もするが…。でもそれより私は翔が本好きになるのが嬉しくて、頼まれる度に貸し続けた。
作品名:光は空と地上に輝く(2) 作家名:MASA