引き篭りニートの親、VRゲームにハマる
幸福(スピード)を得た。幸福を人に与える余裕ができた。それが清十郎にとっての真実であり、今までの清十郎に足りなくて必要だった確かなもの。それを清十郎は手に入れたのだ。
清十郎は今までに感じたことのない優しい気持ちのままログアウトボタンを押した
◆
その後の清十郎は息子に対する態度は変わってきて
ごはんを作っておいて、あげたり、意味もなくプレゼントしたり、ありがとう の言葉をいったり、
愛をこめるようになった。いままでもしなかったワケじゃないが、照れくさくて、どこかぎこちなくて、作った笑顔のようになっていた。
今の清十郎は昔の清十郎とは違う。根本的に変わったのである。
専門家「そうですか、息子さんの奇声や破壊行動は治まりましたか。」
「はい、先生のおかげです。初めてここに来た時、無礼な態度をして、本当に申し訳有りませんでした」
「それで息子さん、部屋からでてくる気配はありますか?」
「いや、それはまだなんです。ですが私は焦るつもりはありません。息子がもし外に出ることに死ぬほど恐怖しているなら、私もそれに付き合ってあげます」
「そういう慈愛を保てるのなら、しばらく様子をみても問題ありませんね。しかし、1年経っても息子さんが部屋からでないとしたら、緊急的なカウンセリングが必要になるかもしれません。それまでに、ゲームの中で息子さんを見つけて、友達になってください、」
「先生、やはり、直接息子にゲームことを伝えてはダメなのですか?」
「今の段階ではダメです。伝えてしまうと、息子さんは、父親が自ら努力して変わったわけじゃなくゲームの力に頼ったから変わっただけなのだと被害妄想してしまう可能性が高いです。そうなったら、もうどうやっても引きこもりを直せなくなります」
「……」
「多くの引きこもりは、特に部屋から出てこれないタイプの引きこもりは、親に対して不信感を持っています。愛されていない、憎まれてるのではないか。いつか捨てられたり、邪魔だから殺されたりするのだはないと不安し、被害妄想に嵌っています。親に対する恐怖は……、
「つまり、親すらも恐怖しているのだから、赤の他人なんて、もっと信用できずに恐怖する。よって外に出られない。『引きこもりを理解する為の冊子』の最初の方に書いてありました。」
「そうです。なので、親御さんには継続して……」
「しかし、私は思うのですが、その場合赤の他人が息子の心を変えて『赤の他人ですら信用できるようになれば、親ならなおさら信用されるのではないでしょうか」
「そういうケースは稀です。赤の他人に信用され求められるというのは、都合のいい人間にならないといけないからです。親御さんも信頼されて重要な仕事を任せられているでしょう。誰かにとって都合がいいから信頼され、こちらも信用して働けるのです。息子さんは誰かに還元できるものがないので、社会に、つまりは他人から信頼も信用もされない。そういう息子さんに、愛を差し出せる他人がそうやすと現れるハズはないです。ですから……」
清十郎は先生の言葉に異論を唱えることもできたが、やめた。言葉がうまく纏まりそうに無かったからだ。自分の考えが正しいかどうかは、実際に息子を見て確認しないとわからない。先生の言葉を思い出しながら、清十郎は空を飛んでいた。
飛行中プレイヤーから音声メッセージが届く。
「もしもし、竹内です。今ダンジョン内のあのフロアに居るのですが……」
竹内は床下に広がる高さを見ながら、
「もし、足を滑らせて落ちたらどうしよう」
恐怖に震えていた。
竹内も清十郎と同じくダンジョン内で若者たちにパーティー組んでの飛び込み落ちに誘われたが、怖くて参加できなかった。
飛び降りた後、どうなったか聞くために連絡先(アドレス)をメンバーと交換していたが、連絡が取れないことから、メンバーとして見放されたと感じていた。
竹内にとって、他に協力をしてくれそうな人は清十郎しかいなかったが、しかし清十郎はネットで束縛されるのを嫌っていた。それを知らされていない竹内は、清十郎にメッセージを送っても無視をされるわけで、清十郎とはパーティーは組めないのだと諦めていた。その矢先、清十郎からメッセージが届き、こうしてログインした待っていたのだった。
空から駆けつけた清十郎を見て驚いて腰をぬかした竹内。
「ちょ! 清十郎さん、なんてことになってんてをすか?」
言葉がかみかみの竹内に清十郎は、これまでの経緯を話した。
「まさかプレイヤー狩りを生業にしてたなんて……一体何人くらい殺ったんですか?」
言いにくそうに答える清十郎
「じゅ、じゅうにんくらい。」
実際には40人は殺している。清十郎はなんとなく減らして答えた。
竹内は少し考えて
「そんなに殺して、よく報復されませんでしたね?」
確かに、ネトゲといえばプレイヤー狩りをすれば噂が広まって、正義感気取りの上級プレイヤーが罰を与えにくるものである。
清十郎は疑問したが、たまたま黙認されたのだろうと思い込んだ。もしくは気付かずに同じプレイヤーを何度も殺したのかもしれない。
そんなことより清十郎には仕事のスケジュールがあり、雑談している暇な時間が勿体無い。清十郎はマントを脱ぎ竹内に渡した。
「悪いけど、これから仕事でログアウトしなければいけない。このアイテムを貸すから役立てて欲しい」
そういうと、清十郎はこの場から消えた。
竹内は気付いた。このゲームは案外孤独なゲームのなのだと。
元来、ネットゲームといえば、友達とワイワイやるものである。
自分の息子は、たとえ引きこもりしててもネットで友達を作ってて、ある程度の幸せを得てるはずだろう。竹内はそう思っていたが、もしかしたら、ネットですら一人で孤独なのかもしれない。
息子を不憫に思う親心だが、竹内もこの魔法のマントを装備することで清十郎のようにこのゲームにハマっしまうのだった……
【竹内視点】
なんじゃこのマント! ぱねえっ!
竹内は大はしゃぎで、暴れまくった。
世界の半分を破壊尽くして気付いた。
破壊尽くしたら、どうやって息子を探せばいいのだ?
ふとした疑問である。
もしかして、いや、もしかしなくても、この惑星に息子がいないとしたら?
竹内は宇宙に飛び出した。マントのおかげで、光を超えるスピードが出せる。
この宇宙のどこかに、息子がいるのか?
竹内はいろんな惑星を見回ったが、生物が住まう星は、おろか宇宙を飛び回ってるかもしれないプレイヤーも見かけない。
広い宇宙で一人の人間を探すなんて米粒に混じった一匹のミジンコを探すより遥かに見つけにくいだろう。目視で見つかる筈がない。
竹内は考えた。もし息子が同じマントを装備しているなら……
竹内は銀河の中心に飛び込み、かき回し、銀河を爆発させた。銀河は塵となり拡散した。
作品名:引き篭りニートの親、VRゲームにハマる 作家名:西中