引き篭りニートの親、VRゲームにハマる
会長がナギを寺井に預けたのはVRで遊ばせるのが目的じゃなかった。早い段階でいろんな人と交流を持たせて、人見知りしないようなたくましい性格にしたいのだとか。そういうのは保育園の仕事だと思うのだが、会長は『バカなガキと交流を深めてもバカにしかならない』、という持論を展開させてナギを保育園に預けるつもりはないようで……、
「だからすまんマサシ、事務所の皆でこの子面倒を観れるかな」
「ちょ、おかしら、マジで言ってんですか? こんなところに連れてくるくらいなら、ナギ嬢さん面倒、オレが観ますけど
「だめだ。、お前は仕事があるんだからな、それに会長(頭の頭)の意向でもある」
「そうでしたか! ゆくゆく組を背負って行くかも知れませんしね……、なるどほど。」
マサシはナギに向かって
「ナギ嬢さん! ここ(事務所)自宅と思ってくつろいでください」
マサシは本当は嫌だった。できれば頭共々殺したいと思ったけど、ぐっと堪えて
部下に八つ当たりした。
「おいテメェら! ナギ嬢さんに、もしもの事あったら、命は無いと思え!」
「おじちゃん怖わーい ! うわーん」
ナギが泣き出してしまった
「マサシ! 今のは駄目だ。流石に園児の見てる前でドス効かすのは」寺井はマサシを叱る
(クソッ なんでオレが叱られんといかん。かしらは組の事舐めとるのでは? ガキを仕事場でウロチョロさせるくらいなら、カシラが家で面倒観ればイイじゃないか!)
マサシは寺井(かしら)に対して失望した。言いたいことを飲み込んだ。
それにてもマサシにとってはやりにくい。子供が近くにるとはいえ、部下たちに暴言や暴力を使うのが禁止されてしまったのだから。これからは、まろやかに部下たちに接しないいけない。日頃の爽快さが得られない。
マサシはその後、部下を殴れないことにイライラしてて、その度に寺井に憎悪を向けるのだった。
「だからすまんマサシ、事務所の皆でこの子の面倒を観れるかな」マサシの頭の中で寺井の言葉が思い出されだ。悪いと思ってるなら、部外者を連れてくるなよ。ましてや子供だ。この先、どこでうっかりヤクの話をするかわからない。そうなったら、全員刑務所行きになる。いくら会長の意向だとしても、会長を説得するのが頭の役目だし、説得できなくても、ここに連れてくるべきではないんだ。
イライラしながら事務所をウロウロするマサシ。部下たちはマサシの顔色を伺いながらいつ拳が飛んでくるか気が気じゃななかった。
「よかったな! これで少しは事務所が静かになるぞ」寺井はマサシに怯えている部下たちを、労うつもりで言った
部下一同は思った。全然大丈夫じゃない。仕事が終わったあと、寺井が家に帰ったあと、マサシがたまり溜まったストレスを爆発させるのだから。
部下たちにとっては、マサシの暴力は火山の噴火と一緒だった。マグマを溜め込むかどうかの違いでしかない。それよりもマサシが怒りを我慢してしまうことで、何に対して怒らせてしまっているのか、表面的にみえにくくなることで、
部下たちはその日の締めくくりに、普段よりも多く、マサシに殴られる、
後になって怒りの原因がわかったところで遅い。部下たちは前段階から怒らせないように対処がしたいのに。
寺井のカシラはやりにくい。部下たちの不満はどんどん溜まっていった
しかし、だからといって会長の孫を拒む訳にもいかない。頭の寺井に楯突くことも、ましてやマサシに楯突くこともできるはずはない。
部下は家畜同然だった。
一方の寺井は皆で交代しながらお守りしとげば、寺井一人くらいVRネトゲで遊ぶ時間くらいは確保できるし、また、寺井はヤクザメンツでもいいから一緒にVRがやりたかったのである。麻薬売買やる合間、ちょとだけ時間が余る合間に、「モンスターいっしょに狩らない?」と言える関係になるのが寺井
の理想の上司像だから。
さっそく
VRゲームにログインした寺井、一人でモンスターを狩るのだがやっぱり楽しくない。ナギは今どうしてるだろうか?
ナギはログインしてから街をウロウロしてる。やっぱり園児だ。ネトゲは大人向けだからな。
ナギはまだ初心者だからレベルが低い、一緒にダンジョン攻略したい寺井だが、足手まといになるから今はまだ無理。
あくまで、まだ無理というだけで、いつかきっと、一緒に冒険できる筈なんだ。と寺井は言い聞かせた。本当は手取り足取りゲームのコツを教えてやりたいが、聞かれてもないのに教えても押し付けがましくなって、VRネトゲを嫌いになってしまう恐れがある。今はただ自由に、好きなように操作させてやるのが、寺井なりのゲーマーとして配慮なのだ。
「つまんなーい」
ナギはヘルメットデバイスを脱ぎ捨てた。飽きたと言わんばかり
そんなバカな!こんな素晴らしい作品をさもゴミクズの如く扱うとかVRの神様に失礼だ。
ナギさんや、このゲームの何が悪かったのでしょうか、宜しければ教えて頂けないでしょうか?
「モンスターと闘うってなに? 何の意味があるの? 何が楽しいの?」
根本的なとこから楽しめてなかったのね。うーん、確に、狩りが楽しめなかったらプレイする理由を見つけることができないぞ。争う以外の楽しみを提案しないとナギまでオレの元を去ってしまう。何より好きなゲームを否定された事が悔しい。
寺井は考えた末、アイテム「天使の羽」をプレゼントした。天使の羽はプレイヤーに羽が生えて空が飛べる様になる。あくまで、1時間程度の作用しかない消耗品であるが、これで少しは仮想現実の面白さを理解してもらえるかもしれない。
1時間後
「飛んでるだけでつまんなーい」
マジか! 空に浮く感覚とか、うまく飛べなくて練習する醍醐味とか、ありませんでしたか?
「ナギ、しょっちゅう、おじいちゃんと一緒にスカイダイビングとかしたり、セスナにのってたりするから」
レベルが高すぎる園児だ。こうなったらとっておきのを出すしかない。スーパーマンスーツ。買えば50万円もする装備品で、音速を超えて飛べるし、宇宙にも出られるし、パンチ一つで大地も破壊する。爽快さ抜群のスーパーアイテムだぞ。
「最初は面白かったけど、一通り惑星破壊し尽くしたら飽きちゃった」
飽きましたか! まあ、絶対に飽きないと言えば嘘になるけど、オレがスーパーマンスーツを初めて装備したときは、泣けるほど感動したというのに。
なんかオレの人生を否定された気分で悔しい
「おじさん泣いてるの?痛いの痛いのとんでけーー」
お前があの世に飛んでくれ
子供に愚痴るとか情けないぞ寺井。そんなんで組の頭が務まるのかよ。
いかん、ゲームにかまけて仕事してなかった。
寺井はログインしなおし、ヤク買ってくれくそうな人を探した。
新規客は大体口コミでくるから、場当たり的には、普通探さないものだけど寺井は独自の販売ルートを確保していた。
作品名:引き篭りニートの親、VRゲームにハマる 作家名:西中