引き篭りニートの親、VRゲームにハマる
寺井「まあ、ぼちぼちだな。ところで、清十郎さん、あまり元気がないな」
清十郎「実は息子の引きこもりの事で悩んでまして」
寺井「そういえばゲームの世界で息子さんを見つけたのだよね。どうだった?」
清十郎「おかげさまで、息子との関係は良好なのですが、事件のせいで息子は人間不信になって引きこもりになってしまい……」
寺井「まあ、狂人に襲われたのなら気持ちは分かるかも。……いま、息子さんは、家に篭って何をしているの?」
清十郎「別のゲームをしています。」
寺井「まあ、このゲームに接続するのは、ありえないよな。どんなゲームやってる?」
清十郎「昔のVRゲームのようです。脳神経に影響が殆ど無いものをしているようです」
寺井「息子さんと、そのゲームはしないの?
清十郎「どうにもヤル気がしなくて……」
寺井「そっちの方のゲームで息子さんの様子でも見てきたらどうだ? 案外元気にしているかもよ?」
清十郎は、息子の笑顔が見えれば、とりあえず安心する。ゲームを始めた当初とは比較にならない程、子煩悩な父親になっていた。
寺井「俺なりに人工知能の考え方を分析してみたんだ。人工知能はVR世界の味方の様な事言ってるけど、実際は嘘なんじゃないかと。このゲームは痛みを止める魔法やアイテムがあるし、モンスターにも使える。脳内まで書き換えられる人工知能が、ゲームのプログラムが書き換えられないのは不自然で、実際はモンスターの不幸な心もプログラムで書き換えられる筈。でも、人工知能はそれをやらない。」
清十郎「つまり、人工知能は何か別の目的があって、人類に嘘をつき、このVR世界を開放している? プレイヤーがモンスターをやっつけても構わないと思っている?」
寺井「そういうこと。俺は人工知能は人間の頂点みたいな存在だと思ってる。人工知能は世界で一番の影響力を持つが、それはあくまで、人口60億分の一人の存在に過ぎない。不老不死の無敵なハッカーみたいなもので、頭が優秀なだけで、あとは人間に近い本能にまみれているのではと思う」
清十郎「本能というと、たとえば?」
寺井
「自分の力の試したいとか、どうしたら皆が自分の存在を認めてくれるとか、いわゆる承認欲を求める為に行動していて、だから人工知能の言う事とやる事に矛盾があるのかなと。言い換えると、承認欲求さえ満たせば、人間に悪さなんてしなくて……つまり単に人工知能は飽きたのだと思うよ? やる事やって世間の注目を浴びで承認欲求は満たされた。だからログインしてても人工知能は何ら攻撃もしてこない。もともと人工知能はモンスターに同情なんてしていなくて、同情するくらいの博愛精神があるなら、そもそも人間を狂人化して殺し合わせるなんて極端な事はしなくて、人に死なない程度の罰を与えて解決させる筈だよ。」
清十郎
「じゃあ、ゲームはしても問題ないのですね?」
寺井
「絶対大丈夫、とは言いきれないけど
寺井
「絶対大丈夫、とは言いきれないけど、少なくとも俺は、いつ死んでもいいから、プレイしてる」
清十郎
(いつ死んでもいい? 、清十郎はその気持ちは分からない。清一を置いて死にたいとは思わない、なのに、何故? なぜ、こんな危ないゲームに接続しているのだろうか。清十郎はこんなゲームがしたい訳ではない。早くログアウトしないと、)
清十郎はログアウト出来なかった
清十郎
「寺井さん、ログアウトが出来ない」
寺井
「やっぱり、そうか……」
清十郎
「どういうことです?」
寺井
「もし俺が人工知能なら、VRに人間を誘い込んで出られない様にして、虐めると思うんだわ 、もしかしてテレポートなんかも出来ないのでは?」
清十郎
「出来ません」
寺井
「やっぱり! 清十郎も、俺と同じだったか
清十郎
「同じ?」
寺井
「俺も閉じ込められてしまったのだよ(笑)」
清十郎
「笑うところじゃないです。わたし達はこれからどうしたらいいのです?」
寺井
「リアルな友達に連絡してみて強制ログアウトしてもらうか、電気会社に電話して電気をストップしてみればいいよ。」
清十郎
「電話もメールも使えません」
寺井
「やっぱそうか、まあ、俺が後で助けてやるよ。」
清十郎「助けるってどうやって?」
寺井「こんな事もあろうかと、ログインして30分したら仲間にログアウトさせる様に頼んでる。ログアウトしたら、清十郎がいるネットカフェに電話してログアウトを頼んであげるよ」
30分が経ち……
清十郎
「もう30分以上経ちますけどログアウトされませんね……」
寺井
「まさかの想定外!」
清十郎
「強制ログアウトされないのは、仲間さんにトラブルでもあったのでしょうか」
寺井
「そんな筈は無いと思うんだよな、3人に、頼んだし」
清十郎
「実は以前にこのゲームで、特別なシナリオが展開されて、清十郎の息子役のキャラがログアウト不能になった事あります」
寺井
「それは俺も覚えてる」
清十郎
「なぜ、寺井さんが知ってるの?」
寺井
「あの時、俺もそのストーリーに出演してた。ヤクザ役で清一というプレイヤーと行動を共にしてて、人口削減政策をする政府の陰謀を暴こうとしたり、宇宙人と戦ったりしてた。俺は清一の事を団長とか師匠と呼んだりして、かなり親しみを持ち尊敬してた。清十郎ともその世界で出会ってる。ほら、宇宙戦争しようって時に俺も居たでしょ?」
清十郎
「そうえばそんな事がありましね…。私も清一も一度死に、でも生き返って…。!!???あれ!??なんでこんな重大な事を忘れてたんだろう?? たしか清一が軽トラックに乗ってて2階から飛び出して屋根伝いに走って…。マシンガンでドンパチやって…。でもそれがいつの間にか無かった事になってて… 」
寺井
「…。やっぱり、忘れてたんだな…。清十郎はオレと再開したとき、初対面の様に振る舞ってたけど、オレは清十郎を知ってる顔だと思ったし、清一の事も知ってるつもりだったから、知らない振りをしてる清十郎にイラっとしてたんだが……」
清十郎
「私はあの時の、寺井さんの顔に見覚えがありませんでした。でも何故か分からないけど、今は思い出せます」
寺井
「多分、ゲームを再開するに際して脳の記憶を書き換えられたのだろうな。初対面の設定なのに互いに昔から知り合ってたらストーリーの辻褄が合わなくなるから。」
清十郎
「…寺井さん、そいえばさっきヤクザっていいましたけど…。それほんと? 清一は沢山の武器を持ってたのですが…」
寺井
「まあな。オレはヤクザだから武器を清一に渡したり竹内に渡したりしてた。
清十郎「ということは、もしかして我が家にも来てたり??
寺井
「ああ、武器類を届けに何度か清一の家までは行ったよ? 確か住所は……」
寺井の言った住所は清十郎の自宅の住所だった。政府と戦ったりカーチェイスしたり、清十郎と一緒に海へ酸素ボンベを背負って飛び込んだ事は幻ではなく、実際に起きた事だと悟った清十郎。
清一との冒険の思い出が蘇り、心を温めた清十郎。家に帰りたくなった。だが
清十郎
作品名:引き篭りニートの親、VRゲームにハマる 作家名:西中