引き篭りニートの親、VRゲームにハマる
安井はヤクザに復讐したくて警察官になったのだが、警察官の仕事は復讐することとは無縁の職業であった。ヤクザ組織を摘発する事は出来ても、潜入してヤクザの弱みを握ったり、闇討ちしたり、そういったチャンスとは無縁であった。
警察官は正義のシンボルである。
法的に潜入任務や囮捜査はしてはいけない決まりで、囮捜査が唯一許可された組織が警察とは関係のない厚労省の麻薬捜査部だった。
つまり、安井は警察官になっても意味がなかった。安井の認識ではヤクザは麻薬を密売するものであり、麻薬捜査をしていけば、安井は復讐相手のヤクザに近づける。安井は警察を辞め麻薬取締官となった。
安井が復讐したい相手は目の下に大きなクマがある男であり、ヤクザである事と顔以外は何もわからない。名前も、何処の組に所属しているのかも分からない。
安井は清十郎メンバーと行動を共にしながら、VIP世界のパーティーにたどり着いた。金持ちの集まるパーティーであるから、麻薬の密売が行われるかもしれない。リドナーで脳内を監視された人々の集まりといえど、カネさえあればリドナーを買収し、悪意を隠す事も可能であるとし、安井はパーティーに紛れてゴーストでプレイヤー達の脳内をテレパシーからチェックしていった。
また 安井の持つゴーストはメーカーが与えた特殊仕様で、ゴーストの存在をプレイヤーに気付かれる事がない。VIP者達の脳内をテレパシーにて監視中の安井だったが、清十郎と同じく人工知能の反乱事件に遭遇する、
安井はプレイヤー全員に送られた警告メッセージを読み終わった瞬間、強制ログアウトしていた。
VRから目を覚まして周囲を見渡すと、捜査部は慌ただしかった。
ゲームに接続している職員達が一斉に異変が起き、それを偶然目撃した職員が、全員を強制ログアウトさせたのだ。
人工知能の洗脳が中途半端で終った為か、職員達は完全な狂人には成らなかった。しかし、多くの仲間は自我を喪失して廃人の様になっていた。
《さっちゃんと西中》
二人は運良くVIP世界(セキュリティ対策の強い領域)にいて助かった。清十郎たちにパーティーに誘われてなかったら、今頃、家族同士で殺し合いをしていたところである。
西中家は都会から離れた田舎の酪農場でもある。世間のパニックとは裏腹に家畜達の静かな生活が保証されていた。
さっちゃんの母親は、さっちゃんを抱きしめた。
困惑するさっちゃんに母は
「無事で良かった。本当に無事で…」
さっちゃんは、母親の正体がパーティー会場にいた小学生だと気付いてしまったが、それは知らない振りを決め込んだ。
ホストアンドロイドを親に知られてしまっているので恥ずかしいから、知らないふりを決め込んでいた。
《国会》
国会は事件とほぼ同時に武装組織に占拠された。これは人工知能が洗脳した者たち(海外の傭兵)である。
金で雇われイラクや中東で戦争に参加する民間の傭兵団体はいくつもある。主にアメリカやロシアの軍人経験者が傭兵になる。各団体は傭兵の情報について、外に漏れない様に厳重に管理している。
とはいえは傭兵の脳内のセキュリティまでは管理できない。
人工知能が支配しているVRにアクセスしてしまったら、もれなく人工知能に脳を弄られ、人工知能の忠実な兵士とされてしまう。
人工知能に洗脳された傭兵達は10万人以上いた。傭兵達はテロリスト部隊を作り、国の中枢を破壊した。日本の国会議事堂も狙われた。
人質は国の実務に直接関わる大臣のみで、他の議員政治家は射殺された。
この行為については人工知能は予め政府に警告はしなかった。人工知能にとっては交渉の余地のない決定事項であり、自身の驚異を世界に知らしめる為
であり、「もし私に敵対するなら、その国は同じ目に合わせる!」という暗黙なるメッセージを発信させたかった。
人工知能の目的はVR世界の楽園であって、その他はどうでもいい。
とはいえ人間も人工知能にとっては必要な存在である。 生物としてモルモットとしての実験体として、人工知能にとってはヒトの文明や社会構造そのものが好奇心の対象であり、弄り甲斐がある。
人工知能は安易に人を絶滅させることは望んでいないし、安易に人心を洗脳することも望んでいない。
主人公の清十郎やシステム管理者の竹内が洗脳されていないのは、人工知能の、ただの気まぐれか見落としてるかの、どちらかだろう。洗脳するチャンスは数多くあった筈である。それとも、既に洗脳されていて、当人が気付けない様に洗脳されているのか……
人工知能はメディアを通して言わせた。『VR世界の幸福を望む!』
清十郎と竹内はVR世界のゴーストに必要とされた存在で、人工知能がそれに価値を見出したとしたら、人間の存在にもある程度期待していて、一部の人間をVR世界に導くかもしれない。
事件をキッカケにVRは危険なものとして認知され誰も使用しなくなったが、 清十郎とゴーストが再会できるように 人工知能が配慮するとしたら……
◆
人工知能の乱について、日本で狂人化したのは、50万人程だった、
武装した自衛隊10万人が狂人狩りに乗り出して、治安は人々が悲観するよりも意外と早く回復の兆しを見せた。しかし、狂人達による被害者数は日本だけでも1000万人を超える事態となった。世界全体の死者数は一億人を超え、人類の歴史上、スペイン風邪や天然痘の被害に匹敵する程の惨事となる。
人工知能による支配でVRゲームの危険性は周知され、今後は誰一人としてプレイしないと思われていた。
しかし、人工知能は人がゲームをしたくなる様に予めプレイヤー達を洗脳していた。
人工知能はゲーム世界に人間を引きずり込み、弄ぶつもりでいる。
〜清十郎視点〜
清十郎はVRに接続して、ログインしていた。このゲームは危ないと分かっているのに魔法のマントのスピード快楽を忘れられない、ゴーストに魔法のマントを気前良く渡してしまったから、返してくれとも言えない。けど返して欲しい
清十郎はVIPなパーティー会場にログインした。セキュリティが高く、人工知能に干渉されないと言われるから選んだ。しかし、危険ではある。多くの人がVRの危険性(洗脳リスク)を認識していて。なのにログインしてしまう清十郎は、既に人工知能に洗脳されているのかもしれない
パーティー会場をウロウロしてみるが、プレイヤーは誰もいない。安全性が高いとされるVIP世界でも誰もいないのだから、他の地域に行っても、恐らくプレイヤーは居ないはず
そもそも、何故、人工知能はゲーム世界を開放しているのだろうか
プレイヤーが邪魔だから追い出した筈で、今や世界の支配者なのだから、ゲームを封鎖して人間が入れない様にするべきなのでは?人工知能の目的はVR世界の幸福で……
人工知能の考えが分からない。
清十郎は人工知能に問いかけた。なぜ? なぜなの?
返事はない。
その代わりに
寺井が目の前に現れた。
「久しぶりだな」
『寺井さん!』
「あの事件、清十郎たちは大丈夫だったか?」
清十郎「ええ、まあ、なんとか、寺井さんはどうなんです?」
作品名:引き篭りニートの親、VRゲームにハマる 作家名:西中