引き篭りニートの親、VRゲームにハマる
「もしそうだとしても、連れてきた途端、お前が俺を殺さない保証なんてないよな? 2000万全てを独り占めするかもしれないだろ?」
「……」
「探して来て欲しいなら、お前が行けよ。人質は俺が見てやるから」
「……」
「大体、嘘かもしれないだろ? カネがあると嘘をついて、庭に回り込み、実は、そこの窓から、お前を殺せるかを伺ってるかもしれないぞ?」
そう言ってバットを持った男は窓まで歩み寄る
「ほら! やっぱり、そうだ! 2千万なんて嘘だったんだよ!」
「嘘つきには、お仕置きが、必要だな!」
バットを持った男が清一に向かって歩き、バットを振りおろした…
瞬間、銃声が聞こえた。バットを持った男は倒れ、次いで、もう一発の銃声が聞こえた。
犯人は銃声に驚いてその場に蹲り、清一が犯人の手から離れる。
室内には拳銃を持った男が一人、立っていた。
男は犯人たちに拳銃を向けたまま、腰にぶら下げていた拳銃を清十郎に投げた。
「こいつらを撃つなら、止めはしない」
そのセリフを聞いた犯人は暴れだした。男の拳銃を奪おうとして包丁で男を刺した。
男は刺さるまま犯人を投げ飛ばし、倒れた犯人の手足を潰す様に何発ものも銃弾をぶち込んだ。男は防弾チョッキを着ていて平気で、再度犯人を殺すかどうかを清十郎に訪ねた。
◆
清十郎と清一は助かった。
清一の首にはロープで絞められた跡が痛々しく残っているが、意識もなんとかあるようで
直ぐにでも病院に連れていかないといけない。清一は足を骨折していた。清一が逃げられない様に犯人達は清一の足を抑えてバットで殴ったらしく、
清十郎は清一を抱き抱えて玄関を出た。
銃を持ち、間一髪、清十郎たちを助けた男はハセガワと名乗った。
ハセガワは自衛隊員らしい。緊急事態につき、武器を支給され、各家庭を巡回しているのだそう
清十郎は清一を一刻も早く病院につれていきたい、なりふりかまわず、清一を抱えて外に出る
ハセガワが言うには事件のせいで被害者が多くいて、病院までの道のりは渋滞しているという
病院も患者を受け入れきれないそうで、自衛隊の医療班が最寄りの学校を拠点に待機しているらしい。
ハセガワは最寄りの学校に行くように指示をした。道中の狂人は排除はしたが、念の為、護衛が必要であれば、付き添うという。
清十郎たちは2キロ先の光木中学校まで歩く。
相変わらず道は渋滞していてる。渋滞といっても、車には殆ど誰も乗っていない。
皆、慌てて避難しようとして車を走らせたのだろう。渋滞に耐えかねて車を乗り捨ててしまい、道路が封鎖されてしまった。救急車や消防は通れず救助は難航している。
ハセガワは道中、清一の容態を気にして話しかけてきた。
清一はハセガワに笑顔を向けた。
清十郎にとってハセガワは救世主だった。もし一歩遅く彼が踏み込むのが遅れていたら、清一は死んでいたかもしれない。
清十郎は清一をおんぶしてるから、後ろでどんな会話のやりとりをしているのか、聞こえてくる。
他愛のない会話のやりとりであるが、清十郎は、久しぶりに聞く息子の明るい声が嬉しかった。
【学校】
光木中学校のグラウンドに自衛隊専用の車にヘリコプター、戦車も一台待機していて物々しい雰囲気に包まれている。
校門に見張りの隊員が6人ほどいて銃を構えている。
「さあ、ここでお別れです」
ハセガワは清十郎たちに一言そう言い、他の市民を救助しに駆けていった。
清十郎たちは校門の前にたどり着くと
「ストッー プ、ストーーップ!」
突然の警笛と叫び声。
無線機持った隊員達が銃をこちらに向けて近づいていくる。
「要救助者を確認、これからボディチェックを始めます」
清一は担架に寝かせられ、清十郎はボディチェックを受けた。
検査が終わり校舎の中へと案内される。
清一は担架を持った医療スタッフに連れていかれ
清十郎はスタッフから、息子が被害を受けた際の状況を細かく聞かれた
幸い息子の命に別状はないそうで、しかし、足の方は直ぐにでも手術が必要になるらしい。
清十郎は手術が始まるまで清一の手をずっと握っていた。恥ずかしがる息子の顔を見ながら、ずっと……
◆◆
竹内は人工知能反乱事件の発端となったVRゲームのシステム管理者だった。
上司の目を盗んで、でまったりとパーティーを楽しんでいた矢先に招集命令があり、一足先にログアウトした、
上司はシステム管理者達を集めて、これから世界がパニックになるだろう未来について語り始めた。
竹内はこの時まで、何も知らない無知な人間で、現実を直視して絶望した。
会社側はこの事件(人工知能の反乱)に関して以前から宣告、脅されていて、ある程度の対策をしていた。
人工知能に反感を与えない程度に、社員の身内だけは、その時間、ゲームにアクセスできない様にプログラムを施していた。
全ては竹内の知らないところで起きていた事件である。
だからといって罪からは逃れられない。竹内はこれから先、この会社に勤めていた件について世間から猛バッシングを受ける事になる。
政府は核兵器をコントロールしている人工知能に逆らえない。人工知能は核に関連した官民達の脳内を自分好みに書き換えていて、いつでも世界を滅ぼす事ができた。
世界各地の主要都市に、いつでも核を発射できる体制を造り上げた人工知能について、人間は抗えない。唯一抗う方法があるとすれば、それは子供を作らない事である。最初から命を生み出さなければ人工知能の被害は体験しなくていいのだから
とはいえ、この人工知能は、そこまで予測しているだろう。もしかしたら洗脳した人類の存在にメリットを感じていて、洗脳した人々に繁殖行為をさせ、人口が減らない様に対策しているかもしれない。
《安井の正体について》
清十郎には見抜けなかったが安井は計算高い女だった。
引き篭りの子の情報提供者に1億円の懸賞金は真っ赤な嘘であり、東証一部の婦人であるのも嘘。引きこもりの息子を探しているというのも嘘だった。
掲示板には、引きこもりの子探し以外にも、出逢い募集や、魔法研究会活動等、様々な、どうでもいい情報を掲載している。どれも実態は何の活動もしていない。活動に興味を持った者たちのアカウントを集めているだけである。
安井は集めたアカウントを監視する。
安井は麻薬捜査官である。プレイヤーと親しくなり麻薬取引の情報を探して犯人を追い詰めるのが仕事である。
ゲーム内では金持ちに成りすまして大金をチラつかせ、麻薬の売人をおびき出すのが安井の役目である。
おとり捜査の為に様々なプレイヤー達と知り合い、人脈を拡げている
安井は捜査班の仲間から特殊なゴーストを借りていて、清十郎ゴーストの心を読む能力を封じている。ゴーストから安井の正体がバレないようにしている。
安井が麻薬捜査部に来た理由について、安井は人には話したことがない。安井はヤクザに強い因縁があり、復讐したいと願っている。
作品名:引き篭りニートの親、VRゲームにハマる 作家名:西中