引き篭りニートの親、VRゲームにハマる
「 君はなんて澄んだ瞳をしているんだ! その目で見つめられると、僕はもう、君を愛せずにはいられない……」
何はともあれ、さっちゃんのプレゼント作戦は成功した様で、つつがなく、その後のパーティーは進行された。
〜清一視点〜
朝8時、清一は父親が会社に行ったのを確認して、部屋から出てきて冷蔵庫を開けた。食べるものは既に食卓に並べてある。以前の父は「自分ことは自分で」といい、こんなことをする父親ではなかったが、今は大きく違う。親に心配され愛されてるのを実感していた清一は、仏壇の前で母親の写真を見つめた。清一が引きこもるキッカケとなった母親だ。父親は決して気付かないだろうが、清一は母親が全てだった。
マザコン清一。
恥ずかしくて、そんな素振りは母親にも誰にも見せなかったが、母親が死んでから、もっと甘えておけば良かったと、清一はいつも心の中で後悔していた。
本格的に引きこもる原因として、心を病んでしまったのは、父親の一言からで、「母さんは天国で私達を見守っている。恥しくないように生きないとな」
父親は慰めの言葉として、ありきたりだが、まともそうなセリフを選んだつもりなのだと、その時の清一は感じた。
しかし、とにかく清一の心には届かなかった。最愛の人が居なくなり、心が崩壊しかけていた矢先に、漫画やドラマで使うようなチープなセリフに清一は、どう返していいか困った。
清一はその時泣いていて、父は泣いてなくて、清一がその時感じたのは、 母に対する思いの違い、心の温度差であった。
家族なら家族への想いは同じで一致しているはず、清一は、その時から父親が家族とは思えなくなっていった。
結論からいうと
清一はその時から、父親を《血のつながる赤の他人》の様に思うようになってしまった。
母に対する思いの違い、心の温度差について、清一自身は無意識に感じ取っている。だから、それが一般的な価値観とは異なるとしても清一はそれを自覚できなかった。
清一は極論して「父親は妻を愛していなかった。清一の母を愛していなかった」と思い込み、父親に対する不信感を募らせていった。
清一自身、その不信感を解消しようと思わなかった訳ではない。しかし、受験や進路を控えた多感な時期であったし、父親は仕事で忙しかったから、清一は時間に追われて、不信感を解消しようとは思わなかった。父も、まさか清一が、不信感を募らせているなんて、思いもよらなかった。
清一自身、まさか、父親を殺したくなる程憎くなるなんて、その時は思いもよらなかった。
しかし、時を重ねるにつれ徐々に清一の心に中にある父への不信感が育っていったのは事実で、その詳しい心の仕組(メカニズム)は専門家でないと分からないのかもしれない。
とにかく、清一は父親に対する不信感を次第に憎悪に変え、殺意に変え、悪意の感情と折り合う生活をする様になっていった。
清一は父親を愛していたからこそ、悪意を抑え込み、復讐心を暴発させない様に努めていた。
清一は心の中で、いつも父に対する愚痴をセリフにしていた。
たとえば
「母親が死んだのは、そもそも父に甲斐性が無いからで、母を働かせていたからストレスで病気になって逝ったのだ。」
「母は働いていても、家族の為にゴハンの支度をしていた。健康に気を使った献立で家族を愛していたのが良く分かる。それなのに健康に気を使わない食事ばかり食べる貴方は、母のこれまでの努力を冒涜している。病気なって早く死ねば清一の面倒なんて観る必要なんてないよね? さっさと死んで責任を放棄したいのだろう。清一から開放されて楽に成りたいのだね? 妻を泣くほど愛してないのだから、清一の存在もその程度なんだ。そうでなければ、清一を働かそうとは、させない筈だ」
「物に当たる行為が悪い事だとは思っているよ? なのに、どうしていつも、悪い事をしているかの様に清一を諭そうとするの? 好きで物を破壊している訳ではないのに。清一を悪者扱いするなんて、愛が無い! やっぱり、父は母を犯したかっただけなんだ! だから、母が死んでも悲しくないのだ。最初から愛してなんかいなかった!」
「清一を働かせようとするのは、清一が人生のお荷物だからでしょ? 清一を働かせて、老後の面倒を観て欲しいのだよね? だから母さんを孕ませて、出産の苦しみを与えても、平気だったんだよね? アルバム観ても、妊娠中の母さんの写真、一つも無いよね。愛してたなら、家族写真を撮ってあるはずだよね? やっぱり父にとっての妻は、童貞を卒業する為の道具で、世間体を気にして独り身でいたくないから、結婚したのだよね? だからこそ、そうしてテレビを観て笑っていられる。母さんが死んでから清一は一度もテレビを観て笑ったこと無いのに!」
「殺したい! 殺したい! 殺したい!殺したい!」
「こんなに清一が壊れるなら、産まなきゃ良かったんだよ。清一だって、貴方を恨んでイライラするのはシンドい。ため息を吐き出したい気持ちを毎日我慢しているのに、父親役の貴方は、どうして仕事に行く度、二階まで届くような声でため息を吐くの? 清一に働かない事の罪悪感を植え付けたいのだよね? そうでなきゃ、ため息なんてしないよね? 清一は毎日、死たいほど苦しんでるのに、ため息はしないよ? 貴方はやはり忍耐がない。だから性に溺れて母さんを捌け口にして、出来ちゃった結婚をしたのだろう。将来設計なんて、どうにかなるさ、と考えていたに違いない。そんな軽い気持ちで、清一の人生を壊した。清一の命を軽んじてるから、だから、お小遣いを くれないのだよね? 清一は貴方の ペットで、だから、トイレに行きたい清一の気持ちが分からない。顔を見れば殺したくなるから、清一は貴方がいるとき、トイレに行けないのだよ? トイレに行きたいとき行けない生活なんて、鎖に繋がれた犬だよね? トイレに行くのに階段を降りてこない清一を貴方は疑問に思わないの? 貴方が10回トイレに行くとして清一は1回くらいしか行ってないよね? シ便で済ましてるのに気付かないの? どうして貴方は、そんなに鈍感なのですか? 清一が貴方を殺さない為にどれほどの苦労を強いられているのか、貴方は全く理解できてないよね? もし、理解できたら、家には帰ることは出来ないはずだからね。家に貴方がいる度、清一は母が居なくなった事実を噛み締めて、悲壮感味わうの、分かってる? 母さんを孕まして殺しておいて、謝罪もしない貴方、清一の前で土下座するの、いつになったらしてくれる? 命はいつか死ぬんだよ? 死ぬとき痛いかもしれないのだよ? それ分かってて清一を生んだとしたら悪魔だし、知らないで生んだとしても、土下座して謝罪する義務くらいあるでしょ? 清一は子供なんて絶対作らないよ? 命を作るなんて悪魔の所業だよね。貴方は悪魔。世の中の多くが悪魔だ。母さんには罪はないよ? セックスは女か受身だから」
父親に暴力をしないのは
清一自身、それらの感情が極端な被害妄想であるのを自覚していたからで、また父を愛していたからで
作品名:引き篭りニートの親、VRゲームにハマる 作家名:西中