引き篭りニートの親、VRゲームにハマる
離婚してもいいから、娘の為に仕事を変えたい、西中さんはそう思ったけど、娘にとっては、西中さん一人が仕事を辞めたとしても家業は続くから、結局変わらないのではないか。離婚しても娘の状況(屠殺文化)が変わる訳でもないのだから、娘の親権はやらない。お姑さんが、そのような態度をしていて、夫もそれを黙認しているらしい。
娘を引き取れないのなら、離婚しても無意味で、どうしたらいいのか、
娘に聞いても部屋から顔を見せることなく「離婚すればいい」「私はここに残る。稼ぎのないお母さんに着いていくのは怖い」
と、言われたらしい。
そんな状態でも夫は見て見ぬ振りをしていて、「いつかわかってくれるさ」と放任主義を決め込んでる。学がなくても家業は継げるし、不登校でも問題ない。そう夫は考えていて……
西中の話を一通り聞いた清十郎たち。
どうアドバイスしていいか、わからず
西中さんは
「わかっています。解決方法は私がまず離婚して、それなりの稼ぎを得て娘を引き取ること。もし夫の家業より稼げたら、堂々と辞めさせられる理由になる。その時、娘は自分についてきてくれるのだと思います」
西中さんは、一通り身の上話をしたあと、心の準備ができたそうで
離婚する覚悟を決めてログアウトした。
西中さんが、去る直前、
「もし娘を見つけたら遊び相手をしてやってください」と言い、娘のアカウントIDを教えてくれた。娘が昔、「一緒にこのゲームをやろう」と教えてくれたが、今はメッセージを送っても見てないか無視しているらしい。
ゲームでは指定したプレイヤーからのメッセージをブロックできる機能がある。ブロックされた相手はブロックしてきた相手がゲーム内の何処にいるのか、わからなくなるから会おうと思っても、会うのは困難になるらしい。
西中さんは当初、娘さんに何か気の効くメッセージでも思いつければと、清十郎たち相談して、清十郎経由で娘さんに言葉を届けようと思ってたらしい。だけど身の上話をしていたら、心の整理がついて、方針を変えたのだ。
今、清十郎の手元には、西中さんから貰った引きこもりのアカウントIDがある。
もしかしたら、娘さんは、引きこもりのプレイヤー友達がいて、その中に清十郎の息子もいるかもしれない。
しかし、娘さんは、清十郎達を知らない。初対面の相手からいきなりメッセージを貰っても警戒するに違いない
まずは娘さんの身辺を探る必要がある。
ナビゲーションシステムを開き、娘さんのアカウントを入力して、検索にかけた。画面に娘さんが公開してるプロフィールとコメントが表示され、居場所の座標も表示された。
娘さんは今、アンドロイド都市ギガロポリスにいる。そこでロボットキャラを育てているそうで、
清十郎達、熟年チームは、テレポートスポットを使い行ってみた。
◆
アンドロイド都市というだけあって、街並みは機械的で、空には透明感ある道があり、その道をなぞる様にタイヤのない車が走っている。
車を運転しているのはNPC(プログラムのキャラ)で、高度な擬似人口知能を持ち、電脳世界での衣食住と経済活動をする様にプログラムされている。NPC(アンドロイド)は人間と同じ様に出産し、家族を作り会社に行くし、テレビや映画も見る。プレイヤーはこの世界で手続きを踏めば、性別を変えられたり、出産したり、アンドロイドと恋愛結婚したりと、壮大なオママゴトを魔法科学という概念により出来るようになっている
「なるほど」
清十郎のナビゲーションシステムが疑問に答えてくれた。
魔法技術の恩恵か、街並みは、空の上の方に続いていて、上に行くほど、広くて大きな建造物がそびえる。また空に浮かぶ街のせいで下の都市に影ができる事もない。
清十郎たちはその下側の街にいて、その下にも街はある。
下の世界は工場が建ち並び煙突から黒い煙が出ている。煙といっても魔法的な煙なのか大気に拡散しても空気は変わらない。美味しい空気である。
工場街の下にもまだ街は続いているようで、よく見ると底(地面)が見えない。都市全体が雲の上に浮いている。
西中さんから貰ったアカウントから娘さんの位置する座標は分かっている。
娘さんは清十郎達が今いる場所の直ぐ下の工場都市のどこかにいる様である
道なりに進めば、たどり着けるらしいが、距離的に、車が必要だ。
清十郎たちの前に一台の車が止まった。
誰も乗っていないが、ナビが自由に使っていいと説明してきた。
街を巡回する無人レンタカーであり、運転は自由にしても良いし、自動運転で好きな所に連れて行ってくれる。運賃50ギニである
50ギニはリアル世界の通貨価値でいうと5000円である。
この件に関して金持ちは安井が無言で入金した。
支払いが済んだ事すら清十郎は気付いていない。
ここで支払われたカネはNPC達の経済活動に影響を与える。例えばNPCが独自に武器や防具を作り商売したりするし、資金が潤沢にあれば安く商売したりもする。、プレイヤー達が投資した分の見返り分、街が発展していく仕組みになっている。
清十郎達は、とりあえず、さっちゃん(愛称ネーム)の場所まで連れて行って貰うことにした。
途中、一台の車が猛スピードで追い越していき、クラッシュした。初心者プレイヤーが運転したのだろうか、車はカーブを曲がりきれずコースアウトして谷に落ちて……。その後、その車は何かに引っ張られる様に空を飛んで元の道(コース)に戻って走り出した
その車は猛スピードでこちらに向って来て、清十郎の車の横につけた。通信でのメッセージが入って来た。
「やあ、俺は向井っつうんだけど、やることなくて暇で車でぶっ飛ばしてたの。みなさん、今からどこ行くの? 良かったら俺もついてっていい?」
清十郎は、暇だから付き合えタイプは苦手である。悪気は無いのだろうし、明るく気さくで、断わり易い空気をかもしてるつもりなのだろう。でも、だらこそ断りづらくもある。断るとこっちが悪いみたいで、後で嫌な気分になる。そもそも暇なのは、その人の問題であり、誰かでその暇を埋めようとか考えるのは失礼なのではないか。暇でなかったら知り合うことさえしない筈であり、忙しくしてたら相手の事を見向きもしない筈であり、素通りしてもいいと存在だと認識している。性格が厚かましいのである。
竹内「ごめんなさい。わたし達これから人に会いに行く予定なの。知らない人がいると、きっと困惑すると思うから」
竹内もこのタイプは苦手だった。明るいだけで空気が読めないのを混同してしまったキャラは、芸人だけが許されるものである。芸人を真似して利用するならライセンスを支払ってからが筋である、と竹内は思った。
向井
「えー、そんなら、その人に連絡とってみようよ。もしかしたら、俺の知り合いかもだし、友達の友達なら、俺も友達でしょー?」
安井
「悪いけど消えてくれる? 視界から消えてくれる?」
安井は気が強い性格をしていた。
向井
「なんだよ、ちょっと遊ぼうって声掛けただけだろうがよ、お互い暇なら気持ちマッチしていいじゃないかよ」
安井
作品名:引き篭りニートの親、VRゲームにハマる 作家名:西中