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めいでんさんぶる 2.幽霊兎の葬送曲

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最上級の位置にいる三井さんを普通は"メイド長"とお呼びする所なのだけど、私にとって現役のメイドさんを見たのは三井さんが初めてでまだメイドに慣れていない私はメイドはメイド、ハウスキーパーはハウスキーパー、と明確な区別の差がないから三井さんの事を"三井さん"と呼んでしまうのかもしれない。
でも三井さんはやはりメイドとして最高の立場にいるわけで。
「三井さん、って呼んじゃまずいかな?」
「メイド長が機嫌を悪くされてないようならそのままでも構わないのじゃないかしら?」
三井さんは常に不機嫌そうな顔をされていますけど……。真面目から、って意味で。
「今までメイド長の事を"三井さん"と呼んだ人っていなかったから。とめ様は名前で呼んでいるし立場も同じだから。佐遊御様と聖良はメイド長と呼ぶし田井中様は……」
もえりん、と。
これは自分で調べるしかないな。ちょうど今日は三井さんに用事もあるし。
話し込んでいる間に廊下を抜け、浴場の脱衣所まで着いて制服を脱ぐ。
ワンピースは首の後ろにジッパーがあるから手が届きにくいけどなんとか外す事が出来た。
さすが慣れてるのか聖良ちゃんはすぐにジッパーを下ろせたようで下着姿になってカチューシャや髪をまとめていたリボンタイを解きにかかっていた。
聖良ちゃんの真っ白なツインテールが広がり、ほんの少しだけウェーブのかかった長い髪が現れる。
そして、左目を覆っている眼帯に手をかけ……、
「やっぱり気になる?」
聖良ちゃんが薄く笑んで私に問いかける。
「気にしてない、……って言ったら嘘になる、かな」
聖良ちゃんが気にしている事だったら失礼だからおそるおそる言うと、
「聖良はね、生まれつき体の色素が少ないの。だから髪もこんなだし、瞳だって……」
そう言いながら眼帯をしていない左目を指さしながら聖良ちゃんは続ける。
「目が赤いのはこれは虹彩の色素が抜けてその下の血管の色が透けて見えるから赤いの」
なんかそういう病気があるって何処かで聞いた事がある。
日本で有名な白兎もその病気から出来た種類なんだとか。
聖良ちゃんは眼帯を外すと私に見えやすいように髪に手をやって上げた。
「こっちも少し色が落ちているけれど元はこんな色なの」
聖良ちゃんの右目は綺麗な空色をしていた。色が落ちたと言っているから元は紺や群青だったのかな。
「両目の色が違うから眼帯してたんだ。私、怪我でもしているのかと思ったよ」
私が言うと聖良ちゃんは何故だかにこりと笑うと、
「早くお風呂行きましょ」
と下着に手をかけ始めた。

体を洗って髪を洗って浴槽に浸かる。
「ふぅー、今日も働いたぁー」
今日は朝から大きな洗濯機を運んで……、あんなの学校じゃ絶対にやらないよ。
「茉莉さんは今朝からあの洗濯機を一人で二つとも運んだんですってね。それも休憩も無しで。見かけによらず力持ちなのね」
頭の上で髪をタオルでまとめた聖良ちゃんが浴槽に入ってきながら関心の様子で言った。
「いや、運んだのは私と三井さんで1台ずつだし休憩も私から言ってしたよ」
いらぬ虫が付いているのはとめさんのせいだろう。
私を勝手に超人にしないでください。
「実はね、聖良は不安だったの」
「え、どうして?」
あの洗濯機を運ぶ仕事が自分に来るかもしれない、とか?
私のバカな予想は当たり前のように的を外していて帰ってきたのは真面目な話。
「今度来る研修生の方は聖良を見て軽蔑するかもしれない、って」
現に中学校の時がそうでよくいじめられていたから、と聖良ちゃんは呟く。
「高校もそれが嫌で中卒で働く道を選んで。ここでお仕えする事になって」
人を見た目で判断していじめの対象にするなんてなんて酷い人がいるのだろう。
確かに私も初めて聖良ちゃんを見たときには、少し皆と違う、と思ったけれど。
実際に聖良ちゃんと接してみて感じたのは、こんな真面目で素敵な女の子なのにどうしていじめられなきゃいけないのだろう。
「御主人様が白い髪に紅色と空色の目が美しいと言って下さってからは聖良は聖良が好きになれて、今ではこの身体を自慢にも感じているわ。この館の人も皆聖良に良くして下さるし。……でもやっぱり外の人からの目線は気になって。出来れば研修生なんて来なければいいと思っていた」
聖良ちゃんが私の手をとって優しげに微笑む。
「けど茉莉さんは聖良を見ても普通に接してくれて。あの時、聖良はとても嬉しかった」
「いや、私なんか最初はゆうれ━━」
「すぐに友達みたいに話しかけてくれて。茉莉さんは聖良にとって初めての友達だったの」
「聖良ちゃん……」
私が聖良ちゃんの言葉になんだか胸の奥が暖かくなってくるのを感じた。これはお湯の温度のせいじゃない。
私も聖良ちゃんの上気して桃色がかかった白い手をとる。
「茉莉さん。この研修が終わっても何があろうと聖良の友達でいてくれる?」
「うん。何があっても私は聖良ちゃんの友達だよ」
私が答えると聖良ちゃんの赤色の目から一筋の雫が流れる。
「あれ、どうしてかしら。こんなに嬉しいのに涙が出るのは……」
「それは、きっと嬉し涙じゃないかな」
答える私の声もなんだか震えて、目頭が熱くなってきた。

しっぽり二人で泣いた後お風呂から上がって私はこれから三井さんの所に用があるから聖良ちゃんには先におやすみしてもらう事にした。
それにしてもお風呂で良かった。泣き腫らした顔で三井さんに会えないもの。
昨日ここに招かれた時初めて招かれた部屋に向かう。
部屋を覚えなきゃいけないと思いつつ三井さんに無理をするなと言われてあまり覚えてないけどそういう体質なのか一度行った部屋は全て覚えているみたい。
三井さんの仕事部屋、厨房、自分の部屋、ランドリールーム、浴場にトイレ、それ位かな。
この調子でいけばすぐに覚えられるかな。……この大きな洋館にあといくつの部屋があるかは全然分からないんだけど。
あ、ここだ。
入る前にリボンタイを正して、……って今はネグリジェなんだよね。
でもこれって良い傾向。
こほん、と小さく咳払いして息を整え、木製のドアを小気味良くノックをする。
2~3秒程間を置いてからドアの向こう側からお入りなさいと三井さんの声がかかったので失礼します、と言ってドアを開けた。
三井さんは机に座ってなんだか大量の書類に向き合ってペンを走らせていた。デスクワークもいっぱいあると言っていたけどこんな時間まで……。
「少しだけ待っていて頂戴。これだけ終わらせるわ」
三井さんが書類から目を離さずに言ったのではいと答えて待つ事にした。
辺りを見回していると部屋の中に入り口とは別の扉があるのに気が付いた。
三井さんの寝室か食器の保管場所辺りかな。
メイドの事は学校で教科書で習っただけだからそんなには分からないけど高価な食器はハウスキーパーが責任を持って管理するのだそうだ。
まあ、18~19世紀のイギリスと現代のメイドなんて結構勝手違ってきてるから違うかもしれないし。
昔は部屋が余っているからってハウスメイドごときに個室を与えたりはしないしご飯もあんなに豪華じゃないし浴場なんかもってのほか。
今は良い時代だよ。労働基準法とかが出来て使用人にも優しい時代がやってきたんだから。