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めいでんさんぶる 2.幽霊兎の葬送曲

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二人は大した怪力の持ち主だよ、とカラカラととめさんは笑った。
「さ、夕食の支度に取りかかるとしますか」
とめさんは一転して仕事の顔になった。
今朝と同じようにとめさんがホワイトボードに献立と軽い注意点を書き、割り当てを振る。
その後は各自が動き、分からない事があればレシピを見たり、とめさんが過去に作った料理をレポートにまとめたファイルを見たり、とめさんに聞いたりして進める。
「やっほ~! 田井中さんが助太刀に来たよ!」
途中で田井中さんが来て、
「美珠々はレタスを丁度良い大きさにちぎって、その後は食器を用意!」
「よーし、頑張っちゃうよー!」
そして、
「あうっ! お皿割れちゃった」
これに関してはとめさんはため息をつき、
「茉莉ちゃん、悪いけど美珠々と一緒に割れたお皿埋めてきて」
「あ、……はい」
私と田井中さんは割れたお皿の欠片とシャベルを持って庭に出る事もありの夕食の支度は進んでいった。

「完成」
ソテーのお皿にソースをかけて飾り、最後にハーブをのせてとめさんがため息をついて言った。
昨日は肉じゃがと庶民的な夕食だったけれど今日はすごい。フレンチなんだけど何処かのお店で出てくるような食べるのがもったいない芸術に近い料理。
「茉莉ちゃんと美珠々も食器洗いが終わったら食べよう」
「「はーい」」
今日は三井さんは取りに来ないのからか、とめさんは運んでくる、とカートを押して行った。

「ただいま。聖良が空いてたから連れてきたよ」
とめさんはお土産に聖良ちゃんを連れてきた。
「茉莉さん、お疲れさま」
聖良ちゃんが薄く微笑む。
「聖良ちゃんもお疲れさま」
「ん~? 何か二人共仲良さそうだね。やっぱ年が近いからか?」
調理台の椅子に腰掛けながらとめさんがふふ、と笑いながら言った。
「今日は色々ありましたから」
私は笑いながら田井中さんとお皿に料理を盛った。
「「「「いただきます」」」」
四人で調理台を囲んで手を合わせる。
今日は凄く豪華だ。このお屋敷の使用人ってなんだかすごく贅沢。お風呂もあるし。
「三井さんと佐遊御さんは忙しいんですね」
こんな美味しい料理なら皆で食べたいな、と思う。
「あの二人、夜は結構忙しいからなぁ。夕食を一緒に食べれる機会はあまりないと思うよ」
「そうなんですか、残念ですね……」
「羅門はともかく巴は仕事を全てやり終わらないと気が済まないみたいだから」
とめさんがはむ、とソテーの一切れを一口で食べる。
「もえりん、お腹空かないのかなぁ?」
田井中さんが大きく口を開けて、でもゆっくりと食べる。
「聖良みたいに倒れないか心配です。今までそんな事は無かったですけど」
聖良ちゃんがちまちまと食べる。
「あ、そーだ。今日はデザートもあるんだ!」
とめさんは食べるのが早いのか、もうお皿の上を空にすると発表した。
「え!? そうなの?」
田井中さんは聞く否や食べるスピードを上げた。
「こら美珠々、そんなに早く食べると喉詰まるわよ?」
落ち着いて食べな、ととめさんが諭すと田井中さんのスピードは元に戻った、と思わせて少し早い。
「とめさんいつの間にデザートなんか……」
知らない内にデザートなんて作っているんだからやっぱりプロは侮れない。

夕食を終えてデザートも頂いて一息ついていた所にとめさんが言った。
「茉莉ちゃんと聖良はもう上がっていいよ。厨房の方も食器洗いを終わらせたら他は仕事無いし」
「分かりました。食器洗いやっておきます」
「あ、それともう一つ。巴が茉莉ちゃんサイズの制服が出来たと言っていたからお風呂から上がったら巴の部屋に行くように」
「はい」
「じゃあ、私は先にお風呂行かせてもらうから」
「「お疲れさまです」」
とめさんは田井中さんを連れて浴場へと向かっていった。
「とめ様って」
食器洗いでも始めようかと思って腰を上げようとすると聖良ちゃんが口を開いた。
「とめさんがどうかしたの?」
「とめ様はお風呂はいつも誰かと一緒なの」
「そうなの?」
確かに昨日は一緒に入ったな。今日は田井中さん。
「自分の仕事が終わってもわざわざ聖良の仕事を手伝ってでも一緒に入ろうとするんですもの」
他の人達とのスキンシップを大切にしているのかな? 確かにとめさんは上級使用人の中でもとても親しみやすいけれど。
そんな事を考えながら私は食器洗いをする事にした。こういう単純作業の時には物思いに耽るのが一番良い。
それに今は三井さんはいないからまたぼーっとしていた、なんて言われないしね。
聖良ちゃんは厨房の辺りの廊下を掃除しに行った。
それにしてもこのお屋敷の御主人様って一体どんな人なんだろう?
私が知っている情報では肉じゃがが好きで、人が多いのが嫌い、聖良ちゃんの事がお気に入り、……あとどうやら私に会わせたくない様な人、らしい。
肉じゃが好き=お袋の味=マザコン、人が多いのが嫌い=人間不信、聖良ちゃん好き=物好き?、私に会わせたくない=私が嫌いな人?=笹山さん、……人間不信だけどマザコンの物好きな笹山さんみたいな人、てのはいささか強引過ぎるよねぇ。
そんなに気になるなら詳しく聞くなり実際にご挨拶に行くとかすればいいんだけどね。
けれど会わない方が良いと言われているのに会うのは少し……。
やっぱり聞くのが良いかな。身近にいるらしい聖良ちゃんや佐遊御さんに聞くだけなら随分楽だし。
食器洗いも終わってとめさん達がお風呂から上がってくるまでまだ時間がかかりそうだ。
私はお湯を沸かして聖良ちゃんをお茶に誘う事にした。
お茶の葉はあんまり高い茶葉を使うのは気が引けるからとりあえずアールグレイにしておこう。
ほんのり柑橘系の香りが広がる厨房で向かいに座った聖良ちゃんが首を傾げた。
「御主人様の事?」
「う、うん。御主人様の事、会った事はないけれど少し気になって」
「……実は聖良もあまり御主人様の事知っているわけでもないの」
「それってどういう事?」
「聖良は御主人様の考えている事がよく分からないの。ただ言える事は気まぐれで機嫌の差が激しくて扱うのが大変で、結構お暇みたいで面白い事を常に求めてらっしゃる……」
結構ズバズバ言うね。
「お仕事は何をしてらっしゃるの?」
聖良ちゃんは私の質問に首を傾げて10秒程経ってからぎこちなく、
「……前は株をしてらっしゃった事もあるけど、今は……何をしてらっしゃるのかしら?」
要は分からないらしい。
……性格の事は扱いにくい、というのがわかったけれど、なんだかもっと謎が深まった気がする。
「ねぇ、今度は茉莉さんのお話を聞かせて?」
「え? 私?」
「ええ。茉莉さんは家政婦を育てる学校から来ていらっしゃるんでしょう? どんな感じなのかな、って」
どうやら聖良ちゃんは学校に軽く憧れを感じているみたい。
「そうだなぁ……。京都校の生徒は中等部と高等部併せて1000人位。寮生活で授業も兼ねて家事掃除なんかは全て自分でやって……先生は元使用人だったり現役の人で。私みたいに使用人を目指している人もいればお嫁修行の為に入る人もいる。教養も身に付くし家政婦の学校だけど意外とお嬢様が多いみたい。私立だしね」
私の話に聖良ちゃんはうんうんと相づちを打って静かに聞いていた。