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めいでんさんぶる 2.幽霊兎の葬送曲

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聖良ちゃんはお昼分の食事を平らげてお茶も飲んだ後、すっかり元気になったみたいで後片付けを始めた。
私もそろそろ仕事に戻らないと。三井さんに後から怒られちゃう。
「あ、私まだ仕事あるから戻るね」
「聖良も手伝うわ」
聖良ちゃんから淡々と答えが帰ってくる。
「え、でも聖良ちゃんは他の仕事があるんじゃ?」
「聖良は今朝洗濯機を壊してしまって気を失い、今日は休みなさいとメイド長がおっしゃったの。でも聖良はもう元気だから好きなようにするわ」
「……じゃあ一緒に仕事しようか!」
聖良ちゃんの食器洗いを手伝って終わらせる事にした。
それにしても洗濯機を壊したのって聖良ちゃんじゃなくて田井中さんじゃなかったっけ? まあ、連帯責任ということね。
「でも残ってる仕事はこれだけで。聖良ちゃんには壷を任せて良い?」
一応、私の仕事だから楽な方を聖良ちゃんに。
「聖良は銅磨きは得意よ。聖良が彫刻を担当しても良い?」
聖良ちゃんがやけに押してくるのでそんなに得意なら、と聖良ちゃんに任せる事にした。
「聖良は金属磨きが得意だとメイド長に言われた事もあるのよ」
三井さんに誉められたのなら相当の腕みたい。やはり現役メイドは違う。

私は壷の掃除を終わらせ(壷ってのは濡れ布巾で汚れを取るだけだからやりがいがない)、聖良ちゃんの方を見てみると丁寧に磨き続けていた。
「本当に得意みたいだね」
「ありがとう」
二人微笑みあって話なんかしながら作業をしていると、
「久隅さん、終わったかしら」
三井さんがチャラチャラと腰につるした鍵束の音を立たせながら様子を見にやって来た。ハウスキーパーは鍵の管理も大切な仕事で常に鍵の束を持ち歩いてないといけない。昔のメイドは様々な面で力のあったハウスキーパーが持つ鍵束の音を恐れたらしいが……私もいずれそうなる時が来るのだろうか。三井さんの下でならなってしまいそうだな……。
「はい。廊下も終わってますし残りは調度品だけです」
「あら? 新垣さんには今日はお休みをあげたはずよ。もう大丈夫なの?」
三井さんが聖良ちゃんに気が付き、話しかけると、
「はい、メイド長。ご心配かけて申し訳ありませんでした。……聖良が空腹で倒れていた所を茉莉さんが助けて下さって、……一足先に昼食をとってしまいました」
「そう。それで二人で仕事をしていたのね。じゃあ久隅さんはお昼にしなさい。丁度、わたくしと佐遊御さんも仕事が一段落ついて今から昼食だから」
気が付くともう午後も一時。
使用人だってそろそろお昼にしてもいい時間だった。
「あ、はい。でも聖良ちゃんは……」
「久隅さんの仕事はもう終わったんでしょう? 新垣さんになら銅磨きを任せても安心よ」
三井さんに続いて聖良ちゃんは、
「茉莉さん、私は大丈夫よ」
「うん。じゃあ、任せるね」
聖良ちゃんを廊下に残して私は三井さんと厨房に向かった。

「お、来たね。ご苦労様」
厨房に行くと佐遊御さんが先に来ていて昼食を暖めて調理台に並べていてくれていた。
「お疲れさまです」
三井さんと隣に座って手を合わせる。
そして三人揃っていただきます。
「お聞きしますけど三井さんはいつもここでご飯を?」
私が聞くと三井さんは、
「ええ」
と綺麗なお箸使いを披露しながら答えた。
上級使用人の中でもハウスキーパーは個室(ここなら皆個室だけれど)があって食事も個室でとっていいはずなんだけど三井さんはここで食べるんだ。
「メイド長はここでないと駄目なんだよ」
向かいに座る佐遊御さんが笑いながら言う。
「どうしてなんですか?」
三井さんは話題が自分の事でも気にしない様で澄ましたままお箸を動かすものだからきっと怒ったりはしないだろうと思い、私は佐遊御さんの話を聞いてみる事にした。
「メイド長は掃除洗濯の他にデスクワークもあるだろう? 個室で食べようとするとその書類に目がいって食事に手が付かなくなってしまうから」
三井さんは真面目過ぎる。聖良ちゃんみたく倒れちゃうんじゃないか? いや、もう既に何度か倒れたとか!?
「自分の意志で動いている内は倒れたりはしないわ」
三井さんは私の心の内を読んだように喋るからヒヤッとする。
「メイド長は多少の無理をしても自己管理がしっかりしているから大丈夫だけど聖良さんは自分を犠牲にしても仕事をするタイプだからなぁ」
「あら? 佐遊御さんもそのタイプじゃない」
佐遊御さんの呟きに三井さんが応える。
「そ、そうかい?」
「ええ。御主人様に髪をよく結われたりして遊ばれているじゃない」
「え、ええとそれは……」
苦い顔をして頭を掻くイケメン執事。
これは自分の事を話された事に対する復讐?
とめさんは三井さんは昔の事話されるのを嫌がるって言っていたけど三井さんは自分の事を話されるの自体が気に入らないのかな?

昼食を終え、洗い物をしてからは掃除洗濯を夕食の準備の5時までに片付けるというノルマを踏まえてお仕事。
少し早めに片付き、洗濯室から厨房に向かっていると後ろから声がかかった。
「りっちょん~!」
「あ、田井中さん。おかえりなさい」
学校から帰ってきた所らしく、学生鞄を肩に下げ、服装はセーラー服。一般的な紺色じゃなくて茶色いセーラー服で細部のデザインも凝っている所から見るとどうやら私立の良い所かな?
こうしてみると田井中さんって本当に中学生なんだな、と感じる。
田井中さんは私のエプロンに抱きついてきてにっこりと笑って、
「ただいまー」
「田井中さんって一年生だっけ?」
「そうだよ」
にしては少し甘えん坊さんかも。中学生ってこんなに抱きついてきたりはしないもの。
まあ、私だってとめさんみたいな頼りになるお姉さんがいたら甘えたい気持ちになっちゃうだろうけど。
田井中さんの部屋は厨房方面みたいだから一緒に歩いて話す。
「今日学校はどうだった?」
「面白かったよ! 田井中さんは地理が特意なんだよ~? でも今の理科はあんまり得意じゃないかな、あの花とかの名前とか。おしべとかの。りっちょんは分かる?」
家政学校は中等部からあってもちろん一般の教養も身につける。中等部も高等部も私は成績は良い方だった。中学校の勉強位なら教える事も出来るかな。
「ええ。私で良ければ教えてあげようか? 仕事の空いた時間に位しか出来ないかもしれないけど」
「それもいいけど……、出来れば宿題を代わりにやって欲しい、かなぁ」
「……田井中さん、それは自分でしようよ」
「だって難しいんだもん」
拗ねたように田井中さんは呟く。
「そんな事ないよ。私が分かるように説明するから、ね?」
私が少し押して言うと田井中さんは大きな瞳を上目遣いで、
「本当に? ……じゃあ約束だよ?」
「うん」
私が頷くと田井中さんはジャンプしてサイド片方だけ結んだポニーテールを跳ねさせて、
「私着替えてお手伝いするね!」
と廊下を走っていった。

「とめさん!」
「ん、どうかした? 茉莉ちゃん」
「あ、なんだか久しぶりにとめさんに会った気がして。つい……」
嬉しくなってしまった。私はどうやらとめさんに懐いてしまったみたい。
「そういえば茉莉ちゃん、朝から大変だったみたいね。あの洗濯機を巴と二人で運ぶなんて」