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めいでんさんぶる 2.幽霊兎の葬送曲

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うう、この格好を他人に見られるの恥ずかしいよ……。今から水でも被って着替えにいってしまおうかなぁ……。
三井さんにはさっきから今日は一段と変な子ね、と軽蔑されるし、本当についてない。
しばらくして白い軽トラが大きな洗濯機2台が中に入っているであろう段ボールを積んでやってきた。
「お久しぶりですー!」
軽トラからつなぎを来た男の人が二人帽子を少し上げて挨拶をする。
「「お疲れさまです」」
三井さんと一緒にお辞儀をする。
良かった。この人達は本当にお得意さんらしくメイドの姿に特に感じる事はないみたい。
三井さんが代金を払ってから業者さんは軽トラから段ポールをせっせと降ろすと一人一つ段ボール箱を持ち上げた。
さすが殿方というか専門の仕事だからか男性一人でもきっと苦しい重さなのにすごいな。年齢も父と変わらない位なのに。
三井さんが若干ゆっくり歩いてランドリールームに案内していくのにもお二人は泣き言なんか言わずにしっかりと付いてきている。
そんなお二人の後ろに付きながら私は関心していた。
ランドリールームに着いて業者さんが段ボール箱を開けていると私と目が合い、それから三井さんに目をやると、
「この子は新入りですかい?」
「ええ。研修生として数日間」
三井さんが私に挨拶しなさい、と顔で言う。
「初めてお目にかかります、久隅です」
とりあえずそれだけ言って澄ました顔をしながら深く頭を下げる。
「しっかしまたえらく若い子を連れてきましたなぁ。もしかして"学校"の方から?」
彼は"学校"の事も知っているらしい。だからあまりこっちの姿を意識されないみたいで良かった。
「はい。京都校の方から」
「そうですかい。また遠い所から。研修、頑張ってくださいよ」
「はい、恐れ入ります」
ここでまた軽くお辞儀を。なんとか上手くいったかな。
「久隅さん、お茶の用意をしてきて頂戴」
業者さんが話を中断して仕事に取りかかったのを見て三井さんは小さな声で言った。
「はい」

厨房にやってくると鍵は開いていたけどとめさんはいないようだ。
もう買い出しに行ったのかな。
調理台の上にクッキーを重り代わりにした置き手紙があった。
『茉莉ちゃんもしくは誰かへ。昼食は作っておいたので温めてね。夕食は5時から作るのでそれまでに茉莉ちゃん仕事終わらせておいてここへ来ること。とめ」
とめ、の字の横にはエビみたいなイラストが書いてあった。
とめさん、意外と可愛い字書くんだ。
さて、茶葉は何処だろう。
ティーポットはとめさんが出したりしまったりしたのを見ていたからこの戸棚にあるけど……。
あ、食料倉庫だ。厨房にある入り口兼出口以外の扉。
食料倉庫の部屋に入ると中はきちんと分類されていて茶葉もすぐに見つかった。
好みなんかは知らないから無難なダージリンでいいよね。
それにしても茶葉多いな。ニルギリ、セイロンウバ、ラプサンスーチョンまであるよ。
引き出しのたくさんついた棚があると思ったら全部茶葉なんだもの。
御主人様もこんなに多くの茶葉の中から今日はあれが飲みたい、なんて言うんだろうか。
うーん、贅沢だなぁ。私もこれだけのお茶、飲んでみたいよ。
ポットで抽出してカップを温めて、カートに乗せてランドリールームへ。
少し茶葉の棚を見ていて遅くなったけども作業がそんなに早く終わる訳じゃないし、大丈夫か。

「こちらの配線、終わりましたわ」
「本当に悪いね、三井さん。手伝ってもらって」
「いいえ、これも仕事ですから」
お茶を持ってきた私はつい、呆気にとられた。
だって三井さん、ちょっとした配線工事やってたみたいだから。
メイドってこんな事までやるの? 否、三井さんそんな事まで出来るの?、って。
「お茶の用意が出来ました」
どうやら洗濯機の取り付けも終わったようで業者さんは腰を叩きながら、
「これはどうも」
と私が入れた紅茶を立ったまま口に含んだ。
疲れてらっしゃるのに机や椅子を用意出来ないのが残念だ。だからと言って仕事中なのに客間へ案内するのも逆に水を差すようで悪い。
「ごちそうさま。久隅さんは若いのにお茶の入れ方が上手ですな」
「恐縮です」
やった、お客様に誉めてもらえた! 顔はあくまで澄ましてお辞儀、心の中でガッツポーズを決める。
「それでは私達はこれで」
来た時と同じように帽子を上げると、
「またご贔屓に!」
と段ボール箱や梱包材を持って業者さんは軽トラに乗り込んでいった。
軽トラが見えなくなると三井さんはこちらを向き、
「久隅さん、挨拶はなかなかだったわ。だけど」
ここで一回目を閉じて、
「貴女ならもう少し美味しく入れられると思うわよ」
いつの間にかティーカップを持って三井さんが言った。
どうやら何処からか持ってきたカップで私のお茶を飲んだらしい。
「少し風味が飛んでいてよ。抽出した時の温度が低かったんじゃないかしら? 業者の方は美味しいと言って下さったけれどもっと喜んでもらえることができたわね」
「……はい、精進致します」
やっぱり三井さんには満足してもらえないみたい。でも三井さんはあくまで"美味しい"上での評価だから一応誉められてるんだよね。それに三井さんは紅茶いれるのとても上手い人だから100点なんてなかなかもらえなくて当たり前。
「じゃあ、次はお掃除をしてもらうわ。廊下を磨くのと調度品を磨くのよ」
よし、頑張ろう!
廊下はモップで磨くからそんなに技術はいらない、けど調度品は材質によって特殊な方法でないといけないから少し大変。
三井さんに言われた範囲の廊下には中国辺りの青磁の壷と銅の彫刻が一つずつ。
壷はとにかく銅の彫刻は厄介そうだ。
とりあえずは廊下を磨きますか。
さっきの疲れもあり、気合いを入れる為に昨晩とめさんからもらった栄養ドリンクを飲んで作業にかかる。
うう……変な味。まだ二回目じゃまだ慣れないか。
バケツに汲んだ水にモップを付けて丁寧に磨いていく。
ゴールまではまだまだ長い。

「ふぅ……」
廊下の曲がり角の所で一息付く。
三井さんに言われた範囲は磨き終わった。後は壷と銅の彫刻だけだ。
う、ううううぅぅぅ……
壷の側に行こうとモップとバケツを持って踵を返そうとすると何かうめき声じみたものが……?
「な、何!?」
ぅぅううぅぅ……
ま、まさかいくらお金持ちの家でも猛獣なんかは放し飼いにはしないよね……?
どうやら何かは曲がり角の向こうにいるみたいだ。
ぅうぅうぅうぅう……
突然恐ろしい程白く、青白い血管が浮きだした手が曲がり角を爪を食い込ませるかのように勢いよく掴んだ。
「ひっ!」
も、もしかして。わ、私は見た事なんてないけど洋館に住み着く幽霊!?
ちょっ、ちょっと待ってよ。そんなの三井さんもとめさんも言ってくれなかったじゃない。
いくら研修生で一週間しかいないって言ったって教えてくれてもいいじゃない?
ぅぅぅぅうううう……
白い手は何かを求めるかのように壁を力強く掴んでいてガクガクと小刻みに震えている。
きっと怨霊だ。関係ない私が呪われるのは勘弁早く逃げ出さなきゃ!
私はモップとバケツを静かに床に置き(もう向こうは私に気付いているかもしれないが)、後ずさりを始めた。私はこんな状況の中、かなり冷静だな、と一人突っ込みを入れたくなった。