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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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 瞳に映っているのは炎麗夜ではなく、その豊満に揺れる胸。彼女にとって、敵は炎麗夜ではなく豊満な胸なのだ。
 顔や胸や全身に青痣をつくりながら、炎麗夜が地面に膝と手をついた。
「やりやがる……魔都エデンの支配者も魔性の子ってわけいかい……くっ」
 鼻から垂れる血を手の甲で拭うが、拭いきることが出来ず大地に吸いこまれる。
 その光景を見ていたケイはフレイから下りた。
「炎麗夜さんを助けてあげて、あたしならだいじょぶだから」
 ケイはフレイの躰を押した。
 鼻息を荒くしたフレイが都智治に突進する!
 小柄な都智治はただ手を前に突き出したのみ、それで受け止めようというのか!?
「穢らわしい!」
 フレイの頭突きが都智治の手のひらに触れた瞬間、爆発的な衝撃波が巻き起こった。
 押し飛ばしたのは都智治!
 巨体のフレイが宙に飛ばされ、轟音を立てながら地面に落ちた。
 炎麗夜はすぐ近くに落ちてきたフレイに手を伸ばす。
「フレイ行くよ、〈ファルス〉合体!」
 黄金の毛皮のマントに変貌するフレイ。
 身に纏った炎麗夜の鼻から、朱い玉が宝玉のように零れる。
 今の炎麗夜は、鼻血すらも芸術的だった。
 眼を血走らせた都智治が殴りかかってきた。
 威風堂々と立つ炎麗夜。
 都智治の拳は炎麗夜に触れることができなかった。
「もぎ取ってやるもぎ取ってやる……だがなぜ触れられない!?」
「おいらたちの〈ムゲン〉は〈崇高美〉。この美しい造形を崩すことは、あんたのような醜い女には不可能なのさ!」
 今まで〈崇高美〉を打ち破ったのはネヴァンの毒粉のみ。
 都智治は後ろに飛び退いた。
「キェエエエエッ〈ファルス〉合体!」
 まかさ都智治も〈ムシャ〉化するつもりか!?
 だが、その近くに獣の姿――〈デーモン〉はいないはず?
 都智治の影が蠢いた。
 まさか――。
「あの影が〈デーモン〉なわけ……聞いたことないよ!」
 炎麗夜は驚愕した。
 〈デーモン〉は別名〈魔装獣〉とも呼ばれている。それは獣の形をしているからだ。
 影は生物ですらないはず!
 次々と蟻のように現れる警備兵と交戦していたシキが、都智治の異変に気づいて振り向いた。
「それも〈デーモン〉だよ! 初期の研究で〈デーモン〉の素体候補は無機物や?現象?まで多岐に及んだんだ!」
 この戦いを遠くから静観していたマダム・ヴィーは、今のシキの発言を集音器で拾っていた。
「なぜあの女……殺す前にどこで仕入れた情報か吐かせる必要がありそうね。あの帽子を被った女は生け捕りにするように伝えなさい」
「畏まりました。しかし、生け捕りにどころか、兵たちは触れることも叶わないようですが?」
 秘書はそう提言した。
「もうすぐバイブ・カハが到着するわ。それまで逃がさないように粘りなさい」
 バイブ・カハがここに来る。
 それまでに炎麗夜は決着をつける必要がありそうだ。
 〈デーモン〉と合体した都智治は、赤黒く塗りつぶされた存在になっていた。
「〈ムゲン〉の力〈悪無(あくむ)〉を思い知るがいい、イーッヒヒヒヒヒッ!」
 高らかに嗤った都智治の姿が消失した。
 だが、その場所からは禍々しい邪気が感じられる。
 炎麗夜は?何か?が近付いてくるのを感じてガードした。
 殺意!
 ガードした腕が血を噴いた。
 なにも見えない。見えない鋭い?何か?で腕が切り裂かれた。
 苦しいほどの禍々しい気配はあるのだ。
 それが近付いてくると息が詰まる。
 しかし、見えない!
 見えない恐怖が襲ってくる。
 炎麗夜の胸の谷間を冷たい汗が流れた。
「〈崇高美〉が破られた……見えない?何か?によって。いったいあの糞餓鬼はどこ行った?」
「キャハハハハ、ここだここだここだキヒヒ!」
 殺意!
 またも炎麗夜の肌が傷つけられた。今度は気配だけを頼りに躱したため、腕を少し切られただけだ。
「また〈崇高美〉が……どうなってやがる!」
 炎麗夜は自分の周りを動く禍々しい?何か?を感じていた。円を描きながら、それは獲物をどうやって甚振ろうか、足踏みしているようだった。
「グヒヒ……醜さは伝染する。テメェの美しさよりも、私の醜さのほうが優っていたようだな。なにが〈崇高美〉だ、穢してやる、穢して犯るぞ!」
 ?何か?が炎麗夜に飛び掛かってきた。それを気配だけで察知して、炎麗夜はカウンターパンチを放った。
 手応えがあった!
 柔らかく不気味な感触を炎麗夜の拳は捉えた。
「グギャアアアア!」
 ?何か?が地面に落ちた音がした。
 見えなくても実体はそこにあるのだ。
 ビュシュルルルルルゥッ!
 不気味な音を鳴らして?何か?が放たれた。
 それは炎麗夜の足首に巻き付き、足を掬ったのだ。
 転倒する炎麗夜。
「ヌメヌメする……なんなんだい!?」
 柔らかくぬらぬらする縄のような物が、巻き付いている感覚がある。
 まるでそれは触手だった。
 触手は炎麗夜の内腿に絡みつきながら、股のほうまでじわじわと登ってくる。
 新たな触手が躰に巻き付いた。全身を蚯蚓(みみず)が這うような嫌悪感。
 触手が螺旋状に超乳を縛り、たわなな実りが変形するほど締め上げる。
「ああっ……くぅ……離せ、おいらを離せ!」
 実体は見えなくとも、それを肌が感じてしまう。さらに唾液のような、妖しく光る液体が、炎麗夜の肉に塗り込まれている。
「ンあっ……このっ……くぅっ……ッ!?」
 触手は炎麗夜の口腔にまで侵入してきた。
 しかし、なにも見えないのだ。
 炎麗夜が地面で独り悶えているようにしか見えない。
 どこからか都智治の声が木霊する。
「何故、何故何故見えないのか教えてやろう。それはあまりに?この?姿が醜いからだ。想像を絶した醜悪な?この?姿は、人間の脳では処理しきれず、見えていないことにされてしまうのだ。そして、テメェは見えない恐怖に犯されるのだ、ギャヒブブブブッ!」
 芳しい花の香りがした。
 〈紅い月〉が天から墜ちてくる。
 ズシャァァァァァァッ!
 見えないその場所が紅い花びらを大量の噴き出した。
「斬ることに見ることは不要」
 花魁衣装を身に纏ったアカツキは、高下駄の上から炎麗夜を見下ろした。
「貴様を助けたわけじゃない勘違いするな。俺様以外の手に掛かるのを防いだだけだ」
「アカツキ……その顔は?」
 炎麗夜はアカツキの顔を見て驚いた。元々白かったその顔が、白塗りされてさらに白くなっていたのだ。唇に引かれた紅がさらに鮮やかに際だっている。
 バイブ・カハよりも先に現れたアカツキ。
 鬼気迫るアカツキが刀の切っ先を向けるのはだれか?