魔導姫譚ヴァルハラ
お互い無言のまま時間が過ぎたが、娘はときおりチラッチラとケイの胸を見ていた。
不思議に思いながらケイは娘の胸を見返したが、こちらも負けず劣らずの爆乳だ。
そして、ケイのほうから口を開くことにした。
「どーかした、あたしの胸?」
「いえ……もしかして野盗ではなくて、べつの者に襲われた……」
娘は言葉を詰まらせながら蒼い顔をしていた。
「だいじょぶですよ、だれにも襲われてませんから。たぶん」
「そうですか。ならどうしてあんなところで、なにも持たず裸で?」
「えっ……それは……」
なによりケイが聞きたいことだ。
言葉に詰まったケイに代わって、娘があの場所にいた理由を話しはじめる。
「昨日の夜あの辺りで大きな爆発があって、今日になってお父さんに見に行ってくれないかと頼まれたんです。そうしたらあなたがいて、ここまで運んできたんです」
「そーなんだ。爆発の原因は?」
「わかりません」
謎の爆発。
ケイが目覚めたのはクレーターの中心だった。
なにか関係がありそうな気がする。そこでケイはこの質問をした。
「あの場所にクレーターって前からあったの?」
「いえ、だから見に行ってびっくりしてしまって。きっと爆発のときにできたんだと思います」
「やっぱり……」
「もしかして心当たりが?」
「えっ……その……」
目覚めたときの状況を言っていいものなのか、ケイは戸惑って口ごもってしまった。
自分を救ってくれた親切な人。悪い人ではないと思い、ケイは話すこと決めた。
「なんで裸であんな場所にいたのか覚えてなくて……」
「もしかして記憶喪失ですか?」
「記憶喪失ってほどなのかどーなのか……。じつは目が覚めたらあのクレーターの真ん中だったんだよね」
「まさか爆発と関係が……人間……ですよね?」
「はい? 人間だよ、もちろん」
「あの爆発で村のひとたちみんな慌ててしまって、神の怒りだとか、悪魔が来るとか、また世界が崩壊するんじゃないかって。農作業を休んで寝こんでしまったひともいるみたいですから」
今の話の中に、怖ろしい言葉が含まれていた。
その言葉は自然とケイの口から発せられた。
「また世界が崩壊?」
「またって言っても、みんなそんな昔から生きてるわけではありませんから、実感はないんですけどね」
「そーじゃなくて、世界が崩壊したわけ、いつ?」
「小さいころにお年寄りとか、両親とかに聞かされて育ちませんでした?」
今の娘の会話から察するに、世界崩壊はだいぶ昔の出来事なのだろう。問題はケイの記憶では、そんな出来事などなかったということ。年寄りや両親に教わらなくても、そんなことが起きていれば歴史の授業でやっているはずだ。
「聞かされなかったみたい。それでさ、いつのことなの、それ?」
ケイは相手の話に合わせながら尋ねた。
「だいたい三〇〇年以上前のことです」
「三〇〇年を引くと……江戸時代?」
「エド時代?」
通じていないようだ。こんな江戸時代のような環境なのに。
ゴォォォォォォォン!!
突然、民家の外から爆発音が聞こえてきた!
身構えるケイ。
娘は青ざめてショックを受けている。昨晩の爆発を思い出したのかもしれない。
しかし、今の爆発はもっと小規模なものだろう。音も近かった。
さらに外からは男の大声が聞こえてきた。
「なんてことを、私たちがなにをしたというのだ! 年貢だってしっかりと治めてるじゃないか!」
それに続いて女の声が聞こえてきたが、こちらの声はよく聞き取れなかった。
おそらく民家の外は危険だ。それは爆発音や緊迫した男の声からもわかる。けれど、状況がわからなければ、危機に備えることもできない。
ケイはそっと玄関から顔を出して、外の様子をうかがった。
「マジ……なにアレ?」
驚きつぶやいたケイの瞳に映ったものは――翼の生えた女だった!?
作品名:魔導姫譚ヴァルハラ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)