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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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第8章 流れ着いた先で


「う……うう……ん……」
 呻きながらケイは目を覚ました。
 頬のついた砂粒。
「なに……ここ……」
 さざ波が聞こえる。
 ケイはふらつく足でゆっくりと立ち上がった。
 陽光を浴びて煌めく海面。
 どうやらどこかの砂浜らしい。
 辺りを見回そうとして、すぐに倒れている炎麗夜を見つけた。
「炎麗夜さんだいじょぶですか!」
 砂浜に膝を付け、ケイは炎麗夜の身体にそっと触れた。
「だいじょぶですか……濡れてない?」
 ケイはびしょびしょだというのに、炎麗夜は濡れていないどころか、砂すらもついていなかった。
「そっか……スーコービがどーとかって。もしかして炎麗夜さんといたからあたしも助かったの?」
 ほかのみんなはどこだろう?
 静かな海。
 広がる砂浜。
「そんな……みんなは……?」
 人影すら見当たらない。
「だいじょぶ、きっとみんなも違う砂浜に……。とにかく今は炎麗夜さんはどこか休める場所に運ばなきゃ」
 ケイは気を失っている炎麗夜を背負って歩き出した。
「……重い。絶対この胸のせいだ」
 背中に当たっている超乳。そこから重みがずっしりと来る気がする。
 砂浜を歩いていると、崖の上に小さく粗末な小屋が見えてきた。
「だれかいるかも!」
 希望で力が沸いたケイは先ほどより早く歩き出した。
 小屋まで辿り着き、木製の扉を叩いた。
「すみませ……開いた」
 扉は叩いたと同時に押されて開いた。
「おじゃましま〜す」
 そっ〜とケイは小屋の中に入った。
 人の気配はない。
 ケイは辺りを見回しベッドを見た瞬間、
「きゃっ!」
 悲鳴をあげた。
 ベッドに横たわるミイラ。
 枯れ葉のようなそのミイラは骨と皮が残り、髪の毛はバサバサになり一部は周りに散乱していた。
「退かすことできないし、炎麗夜さんをいっしょに寝かせるわけにもいかないし。本当はここにもいたくないけど、とりあえず炎麗夜さんを床に下ろそう」
 丁寧に炎麗夜を床に寝かせたあと、ケイは服を脱ぎはじめた。
 下着ははじめから身につけていないので、着物を脱ぐとすぐに全裸になってしまった。
 ぞうきんのように絞ると少し水が出た。
「本当によく助かったなぁ……ん?」
 扉がゆっくりと開き、そこには紅い人影が!
「きゃっ!」
 叫び声をあげたケイ。
 アカツキは刀を抜いた――次の瞬間に倒れた。
「えっ……どうしたの?」
 いったいなにが起きたのか?
 青黒い顔をしたアカツキは気を失っている。
「ど、どうしよ……」
 ケイはアカツキの刀を拾い上げた。
「この刀で今まで……」
 目の前で女が斬られるところも見てきた。
 刀を持つケイの手が震えた。
「でも……あたしにどうしろって……」
 今もまぶたの裏に焼き付いている光景。
 自分を救ってくれた村の娘が目の前で刺された。
 憎しみと悲しみが渦巻く。
「人殺し……人殺し……人殺し人殺し人殺し……人殺し。いくら人を憎んでも、あたしにはできない……そんな怖ろしいことできない」
 ケイは刀を投げ捨てた。
 そして、なにを思ったのかアカツキの身体を引っ張って、丁寧に寝かせることにした。
「助けたくて助けたわけじゃないんだからね。ただ……これ以外にどうしていいのか、わからなかっただけ。この人のことどうするか、自分で決めるのが怖いんだ……」
 ひとまずケイは絞った服を着ることにした。まだ湿っているが、この暖かい気温ならすぐに乾きそうだ。
 立ったままケイは動かなくなった。
 独り言も発せず、時間が過ぎる。
 視線だけを動かしてアカツキと炎麗夜を交互に見て、ほかの物にも目を配った。
「……どうしよ」
 アカツキの着物も濡れている。それもだいぶ水分を含んでしまっているようだ。
「脱がせたほうが……でも男だし、でも風邪引いちゃう、でも風邪ぐらい引けばいいんだ、でもかなり顔色悪そうだし、薬とかあるのかなこの世界」
 最終的にケイは脱がせることに決め、紅い着物に手を掛けた。
「あれ……なにこれ、身体とくっついてる……の!?」
 それは着物ではなかった。〈ムシャ〉化した〈デーモン〉なのだ。そのことにシキは気づいた発言をしていた。
「本当に脱げない……の、かなっ!」
 無理矢理引っ張ったが、やはり身体と一体化しているようだ。
 しかし、数秒をおいて異変が起きはじめた。
 紅い着物が蠢き出す。
 まるで無数の蟲が這うような動きをした着物は、一度肉の塊にまで収縮したあと、そこから肉体を構成しはじめた。
「え……マジ……そんな……」
 肉玉からしなやかな腕と脚が伸びた。それはまさしく人間の手足だった。着物だったものが人間に変貌しようとしている。
 動物が変形するだけでも衝撃的なのに、人間の姿に成ろうとしていることに、ケイは恐ろしさと驚きを隠せなかった。
 瑞々しく、柔らかな丸みを帯びた肉体。
 これまでケイが会っただれよりも豊満な胸。
 魔乳。
 アカツキに覆い被さりながら、その女型〈デーモン〉は姿を現した。
「この……密着してる体勢はちょっと……」
 慌ててケイは女型〈デーモン〉をアカツキから退かして寝かせた。
「きゃっ!」
 露わになったアカツキの裸体。
「女装してるくせに……デカイ」
 しかし、それ以上にケイを驚かせたのは、その全身を這う刺青のようなものだった。
「なにこれ……これってどこかで?」
 似ていた。
 炎麗夜たちに見せてもらった、〈リンガ〉と〈ヨーニ〉の契約の印だった。
「これとこれって別の……一つの印じゃなくていっぱいある。たくさんと契約してるってこと?」
 ケイがアカツキの肉体を調べていると、横で炎麗夜が動きはじめた。
「……くぅ……頭がふらふら……はっ!?」
 急に立ち上がった炎麗夜の目に入ったのはアカツキ。
「なんでこいつが!? なにやってんだいケイ!?」
「えっ……べつにそーゆーことをしようしてたんじゃないから!」
「今すぐそいつから離れな、ぶっ殺してやる!」
「殺すんですか……やっぱり」
「こいつのせいで何人女が殺されたと思ってんだい!」
 それはケイだってわかっている。炎麗夜の気持ちだってわかる。
「でも……人が死ぬとこなんて、見たくないんです」
 涙を浮かべるケイ。
 その言葉を受けて炎麗夜は、全身から力を抜いて殺気を消した。
「わかったよ。でも今は?まだ?殺さないだけだ。利用価値があるかもしれないからね。それにそいつの刻印の数が尋常じゃあない。あとそこの女はだれだい?」
 冷静さを取り戻した炎麗夜は、次々へと疑問点を見つけた。
「やっぱりこれ普通じゃないんですね。この女の人はこの人の〈デーモン〉です」
「なんだって、〈デーモン〉だって!?」
「はい、目の前で形が変わっていくの見ましたから」
「そんなアホな……人型なんて、いや、動物型があんだから、人間も動物のうちか」
 今まで人型〈デーモン〉の存在を知らなかったらしい。それほど珍しいということだろう。
 炎麗夜もアカツキの肉体を調べはじめた。
「通常状態でこの大きさ」
「ふ〜れ〜い〜や〜さ〜ん」
「颶鳴空みたいな怖い顔するな……ん、ほかのみんなはどうした!?」
「それが……砂浜に打ち上げられたのはあたしと炎麗夜さんだけで」
「そうか」