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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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第7章 黙示の魔獣たち


「〈ファルス〉合体!」
 炎麗夜の勇ましい声が響いた。
 眼をつぶっていたケイのまぶたの裏で輝く金色(こんじき)。まぶたを閉じていても、その光で目が眩んでしまった。
 羽根はケイの身体をいつまで経っても貫かなかった。
 眩い光の中でケイはゆっくりと眼を開けた。
 そこに見えたのは超乳。ケイは炎麗夜に抱かれ、黄金の毛皮のマントで身体を包まれていたのだ。
「おいらとフレイの〈ムゲン〉は〈崇高美〉。何者もこの造形美を崩すことはできないのさ!」
 崇高の域に達した美には触れることすら叶わない。抱かれているケイも、じつは数ミリほどの隙間で炎麗夜から離れていた。
 しかし、じつは弱点もある。
「無闇に動いて無様な姿晒すと、この〈ムゲン〉は無効になるんだ(あと万が一だけど、この美しさに勝る技とか喰らったらね)」
 炎麗夜はケイにコソッと囁いた。
 犬耳をピクピクと動かしたシキが振り返った。
「今のボク耳がよくて、聞こえちゃったんだけどだいじょぶ?」
「シキとおいらは乳友だろう!」
 炎麗夜は親指を立ててグッドマークを送った。
 〈崇高美〉によって炎麗夜とケイの安全は確保された。
 これでシキは心置きなく戦える。
「掛かっておいで小鳥ちゃん」
 余裕の笑み。
 その笑みはマッハの怒りを買った。
「そんなに笑いたいなら、口を耳まで引き裂いてやるよ! 死ね死ねミサイル!」
 羽根のミサイルが連続して撃たれた。
 二本の鎖が宙をうねり狂う。
 銀色の鎖レージングは変幻自在に動き、次々と羽根を叩き落とす。そして、もう一本の鎖――金色のドローミがマッハに向かって飛んだ。
 その速さと威勢は飛ぶ鳥を落とす勢い!
 翼の傷口から血が滲ませたマッハだったが――。
「くっ!」
 ドローミを躱すため、音速で移動した。
 しかし長くは保たない!
 血が床に落ちた。
 その場所にシキは二本の鎖を放った。
 一本目のレージングは紙一重で躱したが、二本目のドローミにマッハは捕らえられた。
「脚がッ!」
 鎖によって足首を捕らえられたマッハは転倒した。
 その隙を逃さず、別の鎖によってマッハの身体を巻き、動きを完全に封じた。
「カゴの鳥より酷い扱いだけど、許してね」
 シキはニッコリ笑った。
「放せ、放せ放せーッ!」
 喚き散らすマッハだが、鎖を引き千切る怪力は持っていなかった。
 もう手も足も出ないマッハを見てケイも喜んだ。
「やったねシキさん!」
「お礼は一〇おっぱいでいいよ」
「なんですか一〇おっぱいって……(イヤな予感)」
「もちろん一〇回おっぱい揉むってことだよ。おっぱいは二つあるから、合わせると二〇回ね」
「イヤです、やったらやり返しますよ!」
「それもいいね、うふ」
 逆に相手を悦ばせてしまいそうだ。
 おどけていられるのも、ほんの少しの時間だった。
 血塗られた二本の刃。
 紅い影と漆黒の影がこちらに鬼気を放ちながらやって来る。
 アカツキとモーリアン。
 炎麗夜が叫ぶ。
「仲間や颶鳴空はどうしたッ!」
 それは見るも無惨な光景だった。
 白い月に浮かぶ紅色の蕾が花開く。
「そいつの連れはせいぜいDカップしかないから用はない。あとは全員……斬った」
 アカツキの後方で、女の山が築かれていた。ネヴァンは重傷を負って、その場を動けないようだが、命はまだあるようだ。
「任務はあくまで連行だ。私は死を見ることに疲れている」
 そう低く囁いたモーリアンの後方では、颶鳴空とペガサスが朱く染まって倒れていた。
 炎麗夜の身体は打ち震えていた。
「……すまないケイ(みんなの仇はおいらが……)」
 囁いた炎麗夜が飛び出すことを察したシキが止めた。
「待って! ケイちゃんを守って……これ以上犠牲を出さないように。二人はボクが相手するよ」
「仲間や颶鳴空がやられた相手にひとりじゃあ無茶だよ!」
「そうなったらあとはよろしく」
 一歩前に出たシキ。
 シキ、アカツキ、モーリアンのトライアングルが形成された。
 両手に握った鎖を強く握り絞めたシキが微笑んだ。
「一対、一対、一対だね」
 が、しかし!
 アカツキとモーリアンはシキに仕掛けてきた!
「えっ、マジ……二体一なのっ!?」
 アカツキとモーリアンは商売敵だとしても、狙いは同じ――目の前の豊満な胸だ!
 接近戦になる前にシキはレージングを投げ道具として、アカツキに放った。
 レージングは華麗に舞うアカツキに躱された。
 しかし、シキの狙いは別にあった。
「グレイプニルだよ!」
 レージングを放った手には、新たに七色の鎖が握られていた。
 モーリアンが目の前まで迫っている。そこは七色の鎖グレイプニルの射程距離だった。
 グレイプニルがモーリアンの躰に巻き付こうとする!
「この程度で私を……なっ!」
 まるで呪縛にでもかかったように、あっさりとモーリアンは捕らえられた。
 簀巻きにされたモーリアンは転倒し、それに構わずシキはドローミでアカツキの刀を受けた。
「ギリギリセーフだったね」
 シキは両手でドローミを引っ張りながら握り、顔の目の前で刀を受けていたのだ。あと少し遅ければ、真っ二つにされていた。
 素早くシキは動き、鎖で刀を絡め取り、その勢いで刀を遠くに飛ばした。
 アカツキと離れた床に落ちた刀。武器を失ってしまったが、拾いに行くことをシキが許すはずがない。
 肩の力を抜いてシキは微笑んだ。
「さっき余裕なかったら説明しなかったけど、グレイプニルはどんなものでも絶対に拘束する力があるんだ。欠点は一本しかないってこと。その一本をそっちのセニョリータに使った理由は簡単だよ」
 その言葉を聞いてアカツキは清ました怒りを浮かべた。
「俺様のほうが弱いと?」
「そのとおりだよ。だってキミ、ものすごく顔色悪いし、息上がってるじゃないか。大人数を相手にしたからじゃないでしょ、もしかして病気かな?」
「心は少し病んでいる……が、肉体に問題はない!」
 アカツキが駆けた。
 武器を拾わずシキに向かった!
「覇ッ!」
 アカツキはシキからまだ遠く離れた場所で回し蹴りを放った。
 高下駄だ、高下駄を飛ばしたのだ!
 迎え撃つドローミ!
 シキはドローミで高下駄を叩き落とそうとした。
 キン!
 金属が打ち合う甲高い音。
 ぶつかり合った高下駄と鎖――勝ったのは高下駄だった。
 シキは驚きを隠せない。
「なんて重い下駄なんだ……そんなの履いて戦うなんてバカだよ」
 高下駄は勢いを失わなかったが、鎖の一撃で軌道を外れ、シキとは明後日の方向に飛んでいった。
 だが下駄はもう一足ある!
 すでにそれはシキの眼前にまで迫っていた。
 ケイは息を呑んだ。
 炎麗夜は言葉を失った。
 グガッ!
 恐ろしく鈍い音が響いた。
 重い高下駄を顔面で喰らったシキが、床に吸い付けられるように倒れた。
「シキさーん!」
 悲痛なケイの叫び。
 あんな物を喰らったら、顔の骨は粉砕してしまったに違いない。
 だが、シキは鼻を押さえながらむっくりと立ち上がったのだ。
「いたたたた……可愛い鼻が折れちゃったじゃないか、怒るよホント」
 もしかして軽傷なのか?
 この隙にアカツキは刀を拾い上げ、ケイと炎麗夜に向かって駆けていた。