北へふたり旅 61話~65話
市街地を外れると、広大な景色が車窓にひろがりはじめた。
畑は無い。目に入るのは田圃ばかり。
東北は果樹や野菜の栽培も盛ん。
しかし東北全体を見た場合、米作りが農業の大半をしめている。
耕地面積の7割が水田。
320㎞で駆け抜けても、まだまだ果てしなく水田がつづいていく。
「それにしても空席が目立ちますねぇ・・・」
妻が車内を見回す。
今日は平日の月曜日。週末ではない。たしかに乗客の姿はすくない。
おおめにみても4割前後の乗車率。
仙台駅へ到着した時は、ほぼ満席だった。
(おっ、満席だ!)と驚いたことを覚えている。
しかしその後の光景が衝撃だった。
停車した瞬間、乗客がいっせいに立ちあがった。
全員が仙台で降りるのではないかと思うほど、つぎからつぎ降りてきた。
降車する人がホームにあふれた。
仙台から乗ったのは、わたしたちをふくめて20人ほど。
ようやくそこそこの乗車率へ回復した。
しかしそれもつかの間、盛岡でまたばらばらと乗客が降りていく。
数人がわたしたちの車両へ乗り込んで来た。
見回すと、やたら空席が目立つ状態になってきた。
乗務員が新青森駅で交代する。この駅でもまた乗客がおりていく。
新青森から乗り込んでくる乗客は、まったくいない。
ついにわたしたちの前もうしろの席も空席になった。
(全員が北海道まで行くと思っていたが違ったらしい。ガラガラだね)
(そうですね。すくなからず寂しい光景です)
お手洗いへと言って妻が立ち上がる。
3分後。妻が「大変です!」と声をあげてトイレから戻ってきた。
「前の車両、乗客が溢れています。
こちらはガラガラなのに、すごいなと思い覗いてびっくりしました。
台湾からツアーの皆さんで、満席です!」
すごいねと言いかけた瞬間、窓の外がとつぜん暗くなった。
本州に別れを告げたはやぶさ号が、青函トンネルの中へ飛び込んだ。
(63)へつづく
作品名:北へふたり旅 61話~65話 作家名:落合順平