北へふたり旅 56話~60話
北へふたり旅(58) 行くぜ北海道②
小山駅で上野東京ラインに乗り換え、8時45分。
無事に宇都宮の駅へ着く。
乗る予定の新幹線は9時39分。およそ1時間の余裕がある。
「よし。第一関門クリア。
ここまでは予行演習済みだから、無事に到着してあたりまえ。
問題はここから先だ。
その前にまずコーヒーを呑もう。それから駅弁だ」
会社へむかうひとたちが、水の流れのようにひとつの方向へ進む。
急ぎの足が出口にむかって密集していく。
そんななか、ゆっくり歩いているのはわたしたちだけ。
流れを乱している、中瀬の石のようだ。
通勤客たちが「邪魔だ」とばかり追い越していく。
それでも妻は動じない。
「よく転がるわ、これ」
妻ははじめてのキャディバックの感触を楽しんでいる。
年寄り2人が寄り添い、真新しいキャディバッグを転がしている。
そのうえマイペースで歩いている。
邪魔でもしかたないと、ぎりぎり身体を避けながら通勤の客たちが
顔をしかめて追い越していく。
平日のコーヒーショップは空いていた。
絶え間なく流れていく通勤客の姿を、窓越しにながめた。
わたしたちの目の前を、仕事へ急ぐひとたちがつぎつぎ通り過ぎていく。
「遊ぶのは人が仕事しているときにかぎる。快感がまったく違う」
と誰かが言っていたのを思い出す。
それは正しい。そのことがこうして窓の外を見ているとよくわかる。
味覚まで高揚しているのだろう。
馴染みのコーヒーまで、なぜか美味く感じる。
そういえば今日は、下見で来た時の宇都宮駅と、まったく別の駅に見える。
前回はここから引き返したが、今回はここが出発点。
ここからがわたしたちの新幹線の始発駅。
作品名:北へふたり旅 56話~60話 作家名:落合順平