北へふたり旅 56話~60話
妻が自販機で買ってきたお茶を差し出す。
ひさしぶりの旅に興奮していたようだ。お茶も飲まず、家を出てきた。
ひと口飲んでようやくホッとした。
まわりを見回す。下見の時となにか様子が違う。
高校生の姿が見えない。そうか、学校はまだ夏休みの真っ最中だ・・・
電車の到着まで5分を切った。通勤らしい人たちがようやく姿をみせた。
急ぐふうもなく1人、また1人とやって来る。
電車に乗る人たちは、時間を知り尽くしている。
到着の1分前。いつもの乗車位置へいつものように足をとめて並ぶ。
「さすがだね」
「なにが?」
「定刻に定位置へやって来るサラリーマンたち。
すごいね。俺たちと大違いだ」
「あたりまえです。あの人たちは毎日のことです。
わたしたちは特別な日。
スタートから出遅れているようでは、今日中に北海道へ着けません」
「そうだ。今日はたくさん列車に乗る。
ひとつでも間違えたら、あとの乗り継ぎが厄介なことになる。
間違えないこと。遅れないこと。それが今日の条件だ。
それを考えるとプレッシャーだな。なんだか頭が痛くなってきた・・・」
「緊張感を楽しみましょう。
最初の列車に乗る前から悩んでいてどうするの。
ドンとかまえてください。のんびり行きましょう」
「そうだな。今回はのんびりと旅を楽しむことが本題だ。
5本の列車を乗り継ぎ、無事に函館へ着く。
俺の今日の目標はそれだ」
「わたしの目標は、宇都宮でおいしい駅弁を買いたいわ」
「新幹線の車内で買えないの?」
「車内販売は7割の新幹線で、この春、終了してしまったそうです。
宇都宮駅は駅弁発祥の地です。
老舗のひとつ、松廼家(まつのや)さんがお弁当を販売しています。
800円のあつあつとりめしが、おいしいと評判です」
「良く調べているね君は。食べ物に関してだけ」
「あら。
北海道は食の宝庫。宿は、朝食だけにしょうと言ったのは誰?。
お昼と夕ご飯は、その土地の美味しいものを食べようと言ったのはあなたでしょ。
今日はたくさん電車にのりますから、お昼は駅弁。
1食目は、宇都宮で確保しておきましょ」
「仙台で乗り換える。仙台といえば牛タンが有名だ」
「はい。とうに承知しております。
もちろん牛タン弁当も忘れず、ゲットしたいと考えております。
うふっ」
(58)へつづく
作品名:北へふたり旅 56話~60話 作家名:落合順平