ジェノサイド・ワールド
1章 サキュバス編 【ペティ】
「あっつー。いやキッツいわこれ、マジで」
外套を羽織り、ピンク色の髪を隠しながらカヤックと一緒に歩き続ける。寂れた町村やスラムの方へ行ったことは数多くあったが、周り砂まみれの荒野を彷徨うのは人生初だ。なぜこんなことになったのか。私にも分からない。
そもそも事の始まりは、かのベルディッシュ王国の第43代目国王(予定)の現王子、エリオルトのご子息カインジュ・ベルディッシュを誑かしたところからだろうか。当時15歳の彼は性にも好奇心旺盛で、その強い思念に惹かれパタパタと気配を隠しやってきてみれば、彼がメイドのパンツ片手に夜な夜な一人エッチにふけっているのを窓越しに確認してしまい、「これは自身の役割を果たす時では」と躍起になったことからだろう。
まさか窓に魔力感知センサーが仕掛けられており、彼の部屋に忍び込んで、さあこれから、というタイミングで警備兵に乗り込まれ、そのまま独房へ拉致監禁。あの時の王子の顔は忘れられない。私の身を案じ、「彼女はまだ何もしていない! 何もされていないんだ!!」とどこか名残惜しそうに叫んでいたのを私はひっそりと耳を立てて聞いていた。
一国の王子の精ともあれば、さぞかし魔力供給も潤ったはず。数日分の食い扶持、おろか彼の年齢も考えれば数年以上極上の食事にありつけたかと思っていたのに、よもやこんな形で人生の終点を迎えるとは当時は思ってもいなかった。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学