ジェノサイド・ワールド
「…………」
カイドーは口を開かない。腕を組んで口元の前で結び、ただただじっとテーブルの中央を見つめていた。全員がカイドーに視線を向け、何か一発逆転の策を思い浮べてくれるのではと期待を込めていた。どんなに致命的な状況……つまりヤバい状況でも、この男だけは常に予想を上回ってきた人物だからだ。
「…………アンドール大臣。奴の……、もう一度【シロガネ】の姿を再現してもらってよいだろうか」
先ほどのグレイヘアーの痩せこけた男性が、「わかった」と頷いた後、静かに呪文を口にした。テーブルの中央に徐々に映像が浮かび上がり、緑色に光るホログラム映像のような物が組みあがっていく。やがてそれは四角いパネルにあり、真ん中に顔ができあがっていく。緑と黒で形作られた映像にアンドールがさらに呪文を付け加えると色が付け加えられていった。皮膚は肌色、銀髪、炎色の瞳。アンドールは汗をボタボタと垂らしながら、首から上、その顔を完全に再現した。こんな奴の顔は二度と見たくない、そう思いながら。
「…………!!」
全員が生唾を呑む。そこに実在しないのに、とてつもない威圧感。コイツがたった一人であのアルメリア大国を滅ぼしたのかと思えば、無理もない。どれほど強がっても、この男の前では誰もが震え頭を垂れる。それが理解できてしまうほど、恐怖の二の字を体現していた。
カイドーも額に汗を浮かべながら、しかし逃げずにその男の顔をじっと見据えていた。因縁の敵……世界の共通の敵を海馬に刻み込むかのように。
「……結構。ありがとう。アンドール」
シロガネ、と呼ばれた男の顔が一瞬で消える。アンドールは息を乱しながら袖で汗を拭った。入口傍に立っていたメイドが慌ててタオルを持っていく。
そんな中、暫しの静けさが間を埋め、5分か……10分か。それぐらい経った後で、カイドーは、場に似合わない「フッ」という笑いを零した。
全員がギョッとし、カイドーを見つめる。国王であるエリオルトも、それには漏れない。まさか壊れてしまったのか? そう邪推してしまうほど、カイドーの漏らした笑いは不気味だった。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学