ジェノサイド・ワールド
「貴様……ッ!!」
グレゴリーがバンとテーブルを叩き、水の入ったグラスが倒れる。ナーシアを睨み付けながら、そんなことは百も承知の上だと苦虫を噛み潰した顔をした。
「グレゴリー元帥、そこまでだ!!」
人格否定を交えたグレゴリーのナーシアに対する罵詈雑言を、国王であるエリオルトが黙らせる。全員が注視し、グレゴリーもカッとした表情のまま国王へと顔を向けた。
「……みながイライラするのもわかる。焦燥しているのも、かつてない危機が訪れていることで冷静な判断がくだせないことも十分わかっている。だからせめて、内輪の争いはなくして貰えないか。…頼む」
エリオルトが静かにそう口にすると、グレゴリーは怒りが収まらないような、しかしどこかバツが悪そうな顔をしてうつむき加減になった。彼も、ナーシアも状況は正確に把握している。だからこそこの八方塞がりの状況に何かしらの突破口を見出したいのだろうと、エリオルトは読み取った。
「……カイドー大臣。何か意見……いや、策はあるかね」
エリオルトの右側に座るカイドーと呼ばれた茶髪の男性は額に汗を浮かべていた。まさかこの男までが汗を浮かべるようなことなど、今まであるとは思わなかった。
カイドーはこのベルディッシュ王国の経済の立て直しを行った、天才の経済産業大臣だ。国が総力あげて築いてきた数々の魔術工房の見直し、資源のかかる戦争の停戦処置、腐敗した政治環境を一新させ、ありとあらゆる問題を解決してきたいわばスペシャリストだ。野心のある男ではあったが、それに見合う実力と、真の平和を目指す確かな志を持っていたのも事実。どんなに危機的状況でも、この男だけは焦った様子を見たことがなかったが……、やはりこの状況はあまりにも異常すぎたか。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学