ジェノサイド・ワールド
怖い。まるで怪物に捕まったかのような、命の保証が無い怖さ。シロガネの発した4文字にはその恐怖が練りこまれていた。
ゾクッとした感情をゲンはもちろん感じただろう。ゴクリとつばを飲む音がした。
「そ、そうでやんすか。それなら、せっかくですから少し頂きやす……」
ゴクリ、ゴクリとゲンは2口ジンジャービールを飲む。こんな熱い中カヤックと一緒とはいえやってきたのだ。冷えたジンジャービールは相当身に染みわたるはずだ。うまくないわけがない。
ゲンはくぅーっ、と声を上げた後、グラスをドンとテーブルに下した。
「照り付ける太陽の烈火を耐え忍んだ後のジンジャービールは、本当、至極のうまさ……っ! 旦那ぁ、最高にウマいでやんすゲボェ」
えっ、と思う束の間、ビチャビチャと汚い吐瀉物の音がテーブルの上に広がった。背中越しで分からないが、ゲンは明らかにうろたえている。
「オッ、オッ、」
オボエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェエエエエエ。
ビチャビチャビチャ。
ためらうことなくゲロを吐くゲン。悪臭漂い、ふざけるなと思ったが、ゲロの次は真っ赤に染まった液体が床へと広がった。
私は事態を把握した。あれは血だ。ゲロを吐いて、その後血を吐いたのだ。ゲンは床に膝をつき、四つん這いになりながら床へ血を吐き続けている。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学