ジェノサイド・ワールド
「これがジンジャービール、か」
「うまいっすよ。どこいってもありやすし、人気っす。飲みやすいですしね」
「へえ。そうなんだね。ゲン、一口飲んでみなよ」
シロガネがそう口にすると、一瞬店主のコップを拭く手が止まった。止まった気がした……が、私が振り向いた時にはすでにコップを拭く作業に戻っていた。
店主の顔を眺める。目線は拭き続けているコップへと向けられている。
「あっしが、でやんすか。いいっすよ旦那。ジンジャービールなんて何度も飲んだことありますから……」
「そんなこと言わずに。せっかくだし。少し飲みな」
「いやいや、旦那から初めてのジンジャービール取り上げるなんて、そんな滅相もないでやんす。せっかく初めてなんですから、どんな味が楽しんで……」
ゲンが愛想笑いして、軽やかに断ろうとしたその瞬間、
「ゲン、飲め」
とてつもなく、冷たく、まるでナイフでも突き刺されたかのような、そんな冷たい声が店内に響いた。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学