ジェノサイド・ワールド
「女子供はミルクでもなんでもいいんだ。だがな、大の大人の男がミルクだと? なめてるのはそっちの方だろ。ミルクが飲みたきゃ他をあたりな」
「てめえ……」
まあ店主の気持ちも分からなくはないが、ミルクぐらい出してやれよ、と思わなくもない私だ。しかし今は、今にも手を出しそうなゲンから離れることを優先したい。殴りあいを始めたら、ゲンの肘あたりが私に飛んできそうだ。痛いのはゴメンだ。早く別の席に身を移そう。
そう思い立ち上がりかけた瞬間、「いいよ、ゲン」と声が店内を響いた。シロガネの声だ。あんなに笑われたのに、驚くほどの落ち着きがそこにはあった。
「度数の低いお酒を頼んでおいてくれ。牛乳がないんじゃ、仕方ない」
「…………、ジンジャービールとラミア酒。1杯と1ショット」
「……はいよ」
不躾に出されたジンジャービールとラミア酒をゲンは抱えて席へと戻る。ラミア酒か……。なかなかいいお酒を頼んでいる。ゲンと呼ばれる奴は意外とちゃっかりしてるなあ。多分お金を払うのはシロガネの方なのだろう。
「旦那、お待たせ致しやした」
「ありがとう、ゲン」
シロガネは素直に礼をいい、ジンジャービールのグラスを持ち上げ、いろんな角度から眺める。ゲンの背中越しだからちゃんとは見えないが、なんだか面白い光景だった。まるで生まれて初めてジンジャービールという飲み物を見た生き物の行動だったからだ。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学