ジェノサイド・ワールド
そんな気高いシロガネの姿を、ゲンの背中が覆い隠した。私は思わず舌打ちをした。
「旦那ったら、ホントもう足早いんだから。あっしは暑くてたまんないっすよ。へへっ。何飲みます?」
「…………牛乳でも貰おうかな。お前も好きなものを飲め」
「あー……へい、牛乳ですか。わっかりやした……」
気乗りしなさそうな声で応答しながら、ゲンは席を立ち、こちらへと向かってきた。こっちに来るな。あっちいけシッシッ、と心の中で呟く。
だがそんな心の声も空しく、ゲンは私の隣に来て、店主と話始めた。
「あーあそこの旦那はミルクを欲しがってる。悪いことは言わねえ。ミルク一杯と、ラミア酒1ショットくれ」
「はあ? ミルクだあ?」
店主は私の対応した時と打って変わって、あからさまに馬鹿にした声音で店内に響くように言った。途端、一斉に笑いが起きる。
「こいつあおもしれえな。酒場に来て、ミルク頼む馬鹿がどこにいるんだよ。そんなにミルク欲しけりゃ、家に帰ってママからおっぱいをたらふく貰うんだな!!」
いや、私も頼んでいるんですが……。とはもちろん言えず、外していたフードを深めに被り直す。周りの大爆笑の渦に呑まれながら、グググとミルクを飲みほす。いいじゃない、ミルク。お酒飲めない人だっているよこの世には。私は単にお酒の気分じゃなかっただけだけど。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学