ジェノサイド・ワールド
「ゲン。ここだ」
凛、とした声。その声を聞いて、一気に全身が熱くなるのを感じた。驚いた。声までかっこいいとは。見た目も声も、そしてあの汚らしい【ゲン】とかいう名前の乞食を連れても変わらぬ振る舞い。気品がある人間がこんな寂れたBarに来るやもと誰が思っただろうか。
私はおそらく顔を赤くして、そしてカイドー大臣から任務を受けたということをつい忘れてシロガネビャクヤの顔をガン見した。それがバレていないのは、おそらく私以外の客も彼を見ているからだろう。そりゃまあ、そうだ。とても珍しい恰好をしているからだ。
紺色、の。なんだ。紺とも深い青とも呼べる服。それがズボンも同じ色だ。その中には白い服を着ていると思われる。しかし野暮ったくなく、スラッとさわり心地が良さそうな服だ。首元には何か巻かれていて、それがお腹の方まで伸びている。瞳と同じく、炎のような紅色だ。
ひとつ分かるのは、間違いなく高貴な身分の方だ。あんな服、そうそうお目にかかれない。貴族でも着ているのは見たことない。変な装飾が一切ついておらず、何もかも削ぎ落とされたかのように洗練されているのに、どうしてか気高さだけが残っている。それを着こなしている彼も相当な人物だと分かる。
持っているカバンも高そうだ。どういうデザインだろう。どう切って縫ってをしたらああなる? 今までみたカバンの中で、一番綺麗なカバンだ。何から何まで、洗練されている。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学