ジェノサイド・ワールド
シロガネビャクヤ……。変わった名前だ。どうにも聞きなれない。過去にそんな名前のイントネーションを聞いたことがあっただろうか。うーん、ジパングの方で居たような気も。
「お前には、コイツを籠絡して欲しい」
「え? このシロガネビャクヤって人を?」
「そうだ」
カイドー大臣はそう続けた。憎々しげにこの「シロガネ ビャクヤ」を見ながら。
「えーっと、この人はその。何?」
「俺がお前に聞きたいのは返事だけだ。やるのか、やらないのか」
「いや。えっ、その。……カイドー大臣の、仇敵ってことかしら……?」
「…………」
カイドー大臣は何も言わない。こわっ!! え、なんなのコイツは。何か分からないけど絶対ヤバい。
カイドー大臣は右上に視線を預けた後、私に視線を戻して言葉を続けた。
「……ひとことでいえば、『王国の安全を乱す者』だ。お前はこれだけのことを知っていればいい」
「あーなるほど……。王国のアンゼン……」
安全を乱す。つまりカイドー大臣の何らかの政治的悪ということか。まあここ数年戦争も無くなって、その顔に似合わず平和活動に勤しんできた大臣からすれば、平和を妨げる異分子を排除したがるのはわかる。
でも珍しい。どうして武力的排除をしないのだろうか。部隊を動かせない理由があるとか? あるいは……。
「で、どうするんだ。やるのか、サキュバス【ペティ】。この件、無事解決したら王子の命を狙った件に関して、完全な不問措置がとられる。お前は完全な自由だ」
「命を狙ったなんてそんな……ちょっと青少年の溜まったものをデトックスしてあげようと……」
軽はずみでそんな返事をすると、カイドー大臣は本気の力で机をバンッ!!と叩いた。
「どうするんだ!! やるのか、やらないのか!!!」
なんという剣幕。怒鳴られただけで命の危機を感じ取った私は思わず
「ヤります!! ヤらせてください!!!」
と返答してしまっていたのだった。
作品名:ジェノサイド・ワールド 作家名:綺斎学