意識が時間を左右する
その中で一人遠くの方で一人の老人がこちらを見ている。その老人は一人で佇んでいるが、決してみすぼらしいわけでも哀愁が漂っているわけでもない。どのように表現していいのか分からないが、
――その老人は将来の自分なのではないか?
と感じた。
そしてその老人は矢吹にしか見ることができない。なぜならそれが自分の将来だからである。
この世の中で見ることができるものは、現在か過去しかない。もし未来が見えたのだとしても、それは自分にしか見ることのできないもので、決して他の人の視線ではありえない。
矢吹はそんなことを考えながら目の前に女性を見つめた。ニッコリと笑ってくれた彼女の姿が、果たしてまわりの人、星野や綾香、そして坂田に見えたのであろうか?
それは謎であり、敢えて矢吹はその謎を追求しようとは思わなかったのだ……。
( 完 )
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作品名:意識が時間を左右する 作家名:森本晃次