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意識が時間を左右する

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。ご了承願います。

               ある朝の風景

 今まで見たこともなかった鏡が気になるようになったのは、自分を意識するようになったのか、それともまわりの視線が気になるようになったからなのか、ハッキリとは分からない。一人で鏡を見るという行為が恐怖を煽るという意識は子供の頃からあったので、それがいつの間にか癖になってしまったようで、無意識の意識と言えるのではないだろうか。
 大人になってから気が付けば癖になっていたということも珍しくなく、特に鏡のようなアイテムが気になるようになったのは、大人になってからではないように思える。
 大人になると、余計なことを考えないようにしていた。怖いという感覚はリアルな思いでたくさんだと思っていた。
「恐怖は人とのかかわりの中にこそ存在する」
 と言われたことがあったが、まさにその通りだった。
「お前は本当に子供の頃と比べて変わったよな」
 と、腐れ縁の友達からよく言われる。
 今年で五十二歳になる矢吹次郎は、学生時代の自分が嫌いだった。女の子にはよくモテたのだが、そんな自分が嫌だったのだ。
 男性からはあまり好かれることはなかった。友達というと社会人になってからの人はいない。学生時代の友達数人と時々一緒に食事をするくらいで、それもお互いに仕事が忙しかったりして、結局は会うのも億劫になり、会うこと自体に気を遣うということを感じると、連絡をすることもなくなってきた。
 そんなある日、高校の同窓会の案内が届いた。今までは同窓会に顔を出すこともなく、学生時代の記憶も色褪せてきた。そんな時に届いた案内状だったが、そのまま封を開けることもなく、同窓会があったということすら忘れてしまう運命になったことであろう。
――そういえば、去年も来たっけ?
 と、たまに届く案内状が最後はいつだったのかを思い出そうとしても思い出せるものではなかった。
 案内状が届いた次の日だったか。学生時代の腐れ縁であるが最近は縁遠くなりかかっていた友人から連絡を貰った。昔の名残で家には固定電話を置いていたが、固定電話が鳴るなど本当に久しぶりだったので、ビックリした。
 ファックスと一緒にしている固定電話だが、仕事の関係もあって、ファックスでのやり取りもあるので、固定電話は取り外そうとはしなかった。だから最初呼び出し音がなった時も、
「ファックスだろうな」
 と思ったくらいだった。
 だが、三回コールした時点で電話だと分かると、反射的に受話器を取った矢吹だった。
「もしもし」
 電話になると少し声のトーンが下がる矢吹は、よほどの用事がないと、掛けたくないらしい。矢吹はそのことを自分でも分かっていて、会社を離れて掛かってきた電話には、どうしても緊張してしまうのだった。
 そんな矢吹の声に相手は委縮したのか、すぐには返事をしなかった。ただ息遣いだけは聞こえてくるので、矢吹は相手の反応を待っているだけしかできなかった。
「もしもし」
 意を決したのか、相手もやっと声を発した。
「どちら様でしょうか?」
 と聞くと、今度は間髪入れずに、
「星野です」
 という言葉が返ってきた。
「星野義男君かい?」
 聞き覚えのある声にやっと懐かしさがこみあげてきて、
「ああ、久しぶりだね」
 と言われ、
――確か一年ぶりくらいかな?
 数人いる腐れ縁の仲間の中で、一番最近まで話をしていたのが、今電話を掛けてくれた星野だった。
 一年ぶりということであれば、それほどの久しぶりというわけではないのだろうが、ほとんど友達付き合いもなくなってきた矢吹には、久しぶりという星野の言葉が新鮮に感じられた。
 星野は確か地元大手企業で営業部長をしているはずだった。数人の友達の中でずっとサラリーマンを続けている唯一の男で、営業部長という地位が出世頭なのかどうか分からないが、地元で大手の企業での部長というポストが決して低い位置であるとは思えない。
 三十歳の途中くらいまでは定期的に会っていた友達の一人だったが、その頃はバリバリの営業マンで、出世というイメージよりも、やり手のイメージの方が強かったので、部長さんと言われてもピンとこなかった。
「今年の同窓会なんだけど、お前は来れるかな?」
 星野はそう言って、すぐに本題に入った。
 懐かしさに浸る暇もなく、彼はそう言ったが、これも星野という男の性格でもあった。すぐに本題に入るのは星野の短所ではあったが、長所でもあるような気がする。星野は学生時代からよく話をしたうちの一人だが、一番理屈っぽかったような気がする。
 大学では文芸に興味があり、今フリーライターをしている矢吹と一番話が合っていた。
 大学時代には文芸サークルに所属していて、同人誌の発行にも二人が中心になってやっていたので、星野が部長で、矢吹が副部長の時代もあったくらいだった。
 学生時代は星野の方が目立っていた。星野はいつも前に出ていて、作品にもその傾向が序実に現れていることもあって、いつも巻頭を飾るのは星野の作品だった。
 矢吹はどちらかというと裏方に徹しているところもあり、編集の仕事や構成の仕事などに長けていた。矢吹は大学を卒業すると、すぐに地元の出版社に就職したが、出版社のやり方と合わなかったこともあって、三十歳を過ぎて会社を辞め、フリーライターを続けるようになった。
 生活は決して楽ではなかったが、信念を貫いているという気持ちもあって、出版社で働いているよりもよほどやりがいがあった。それでも生活のために仕方なく、理不尽と思えるような記事を書いて生計を立てている時期もあった。
 だが、そんな苦悩を後に引かないのは矢吹のいいところと言っていいのか、すぐに新たなネタを探しに出かけると、すぐに前の理不尽さを忘れ去ることができたのだ。
 友達連中と連絡を取っていたのは、フリーになってからもしばらく続いていた。大体決まった四人の中でのことだったが、皆が一堂に会するのは一年に一度くらいだろうか。別に同窓会に参加するというわけではなく、それぞれに予定を調整し、定例会の気分で集まるのだった。
 誰かが幹事になるというわけではなく、調整するのはいつも星野だった。大学時代にはいつも前面にいて目立つ存在だった彼が、卒業後は裏方ともいえる幹事のような役を担うようになったのは、彼だけがサラリーマンという社会人としての団体生活に従事するようになったからであろう。
 集まったからと言って、別に議題があるわけではない。一番の集まる理由というと、顔見せという要素が多分にあり、一年に一度くらいの割合で会うことで、生存確認をしていると言っても過言ではない。
 二十代くらいは、一年一年が結構長かったからか、
「久しぶり」
 という言葉が様になっていたが、三十代になると、それまでとは明らかに一年が経つのが早かった。
 あっという間に一年が過ぎ去り、
「久しぶり」
作品名:意識が時間を左右する 作家名:森本晃次